すべての既約元が素元になるがUFDでない例
ここでは「すべての既約元が素元になるがUFDでない例」を紹介したいと思います.
代数学の教科書ではよく次の命題が載っています.
命題 1. 可換環 が ならば, のすべての既約元は素元になる.
今回はこの命題の逆の反例を考えるということです.
実は次のようなものを考えるといいそうです.
定理 1. を体として
を考えるとこれはすべての既約元が素元になるが でない.
証明 まず普通の一変数多項式環のときのように の元に対して次数を定義する. に対して
とおく. これは有限集合なので
と定める.
は 代数の同型であり, .
補題 1. の証明 が逆写像である. 次数についても明らか. (終)
さて, とみれるので である. 特に部分環になる.
ただちに次がわかる.
補題 2. が において既約なら においても既約である.
補題 2. の証明 対偶を考えれば明らか. (終)
補題 3. は次数が正とする. このときもし が既約元なら素元である.
補題 3. の証明 が を割り切るとする. このときある が存在して となる. さてここで を
となるものとしてとる. (それぞれ有限集合なのでとれる)
このとき によって は の元になり
となる.
はもともと既約元であり は同型なので も の既約元になり, 補題 より においても既約元となる.
は なので は素元になり, これは または を割り切るので
としていい. これに を施すと
となり が素元とわかる. (終)
補題 4. とする. このとき の因子は に限る.
補題 4. の証明 を因子とする. このときある が存在して . さて先ほどと同様に をうまくとって とできる. すると
となる. が で は既約なので, ある と非負整数 が存在して となる. すると
で なので は所望の形である. (終)
補題 5. は でない. 特に は二つ以上の既約元の積として表せない.
補題 5. の証明 補題 より の因子は の形である. しかしそのような形のものは既約元でない. なぜなら なら単元になり, もし > なら となりどちらも単元でない. (終)
以上より定理が示される. (終)
何か間違いなどあれば教えてください.
[参考文献] R. C. Daileda 『A Non-UFD Integral Domain in Which Irreducibles are Prime』non_ufd.pdf (trinity.edu)