ガランガラのブログ

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すべての既約元が素元になるがUFDでない例

ここでは「すべての既約元が素元になるがUFDでない例」を紹介したいと思います.

代数学の教科書ではよく次の命題が載っています.

命題 1. 可換環  A \textrm{UFD} ならば,   A のすべての既約元は素元になる.

今回はこの命題の逆の反例を考えるということです.

実は次のようなものを考えるといいそうです.

定理 1.  F を体として

 A := F [ x ; \mathbb{Q}_{0}^{+} ] := \{ \sum_{r \in \mathbb{Q}_{0}^{+}} a_{r}x^{r} \mid a_{r} \in F, 有限個の r を除いて a_r=0 \}

を考えるとこれはすべての既約元が素元になるが  \textrm{UFD} でない.

証明 まず普通の一変数多項式環のときのように  A の元に対して次数を定義する.  0 \not= f(x) \in A に対して

 S(f) := \{ r \mid a_r \not=0 \}

とおく. これは有限集合なので

 \textrm{deg}f(x) := \textrm{max}S(f)

と定める.

 

補題 1. 任意の正の有理数  r に対して, 

 \phi_{r} : A \to A,\ f(x) \mapsto f(x^r)

 F 代数の同型であり,  \textrm{deg} \phi_{r}(f(x)) = r \textrm{deg} f(x).

補題 1. の証明  \phi_{1/r} が逆写像である. 次数についても明らか. (終)

 

さて,  F [x] = F [ x ; \mathbb{N}_{0} ] とみれるので  F [x] \subset A である. 特に部分環になる.

ただちに次がわかる.

補題 2. f(x) \in F [x] A において既約なら  F [x] においても既約である.

補題 2. の証明 対偶を考えれば明らか. (終)

 

補題 3.  f(x) \in A は次数が正とする. このときもし  f(x) が既約元なら素元である.

補題 3. の証明  f(x) a(x)b(x) を割り切るとする. このときある  g(x) \in A が存在して  f(x)g(x) = a(x)b(x) となる. さてここで  n \in \mathbb{N}

 \forall r \in S(f) \cup S(g) \cup S(a) \cup S(b),\ nr \in \mathbb{Z}

となるものとしてとる. (それぞれ有限集合なのでとれる)

このとき  \phi_{n} によって  f(x), g(x), a(x), b(x) F [ x ] の元になり

 \phi_{n}(f(x)) \phi_{n}(g(x)) = \phi_{n}(a(x)) \phi_{n}(b(x))

となる.

 f(x) はもともと既約元であり  \phi_{n} は同型なので  \phi_{n}(f(x)) A の既約元になり, 補題  2 より  F [ x ] においても既約元となる.

 F [ x ] \textrm{UFD} なので  \phi_{n}(f(x)) は素元になり, これは  \phi_{n}(a(x)) または  \phi_{n}(b(x)) を割り切るので

 \phi_{n}(a(x)) = c(x) \phi_{n}(f(x)) \ \exists c(x) \in F [ x ]

としていい. これに  \phi_{1/n} を施すと

 a(x) = \phi_{1/n}(c(x)) f(x)

となり  f(x) が素元とわかる. (終)

 

補題 4.  a \in F^{\times},\ r \in \mathbb{Q}^{+} とする. このとき  ax^r の因子は  bx^s\ (b \in F^{\times},\ s \in \mathbb{Q}_{0}^{+},\ s \leq r) に限る.

補題 4. の証明  f(x) \in A を因子とする. このときある  g(x) \in A が存在して  ax^r = f(x) g(x). さて先ほどと同様に  n \in \mathbb{N} をうまくとって  \phi_{n}(ax^r),\ \phi_{n}(f(x)), \phi_{n}(g(x)) \in F [ x ] とできる. すると

 ax^{rn} = \phi_{n}(f(x)) \phi_{n}(g(x))

となる.  F [x ] \textrm{UFD} x は既約なので, ある  b \in F^{\times} と非負整数  t \leq rn が存在して  \phi_{n}(f(x)) = bx^t となる. すると

 f(x) = bx^{t/n}

 t/n \leq r なので  f(x) は所望の形である. (終)

 

補題 5.  A \textrm{UFD} でない. 特に  x \in A は二つ以上の既約元の積として表せない.

補題 5. の証明 補題  4 より  x の因子は  ax^r,\ a \in F^{\times},\ 0 \leq r \leq 1 の形である. しかしそのような形のものは既約元でない. なぜなら  r=0 なら単元になり, もし  r >  0 なら  ax^r = (ax^{r/2}) x^{r/2} となりどちらも単元でない. (終)

 

以上より定理が示される. (終)

 

何か間違いなどあれば教えてください.

 

[参考文献] R. C. Daileda 『A Non-UFD Integral Domain in Which Irreducibles are Prime』non_ufd.pdf (trinity.edu)