クラスナーの補題とその応用
ここでは, 「クラスナーの補題」という定理とその応用を紹介します.
以下では次を仮定します.
- は 整域
- は の商体で標数
- に対して, は有限集合
- は拡大次数 の有限次拡大
- は の における整閉包
では早速定理を述べていきましょう.
定理 1.(Krasner's lemma) 上の仮定にさらに, を完備離散付値環, を 拡大とする. の素イデアルによる 上の付値を, に対して とする. とし, で ならば とする. このとき, である.
注 2. 証明に入る前にざっくり内容を言葉で書いておくと
が の共役よりも に近いなら
ということになります. では, 証明していきましょう.
証明 とする. がいえれば, の基本定理より が示せる. まず, は離散付値環で素イデアルは一つだけなので, は の素イデアルを不変にする. よって に対して である.
なので, なら
となり矛盾. よって となり, となる. (終)
次の命題は
係数が近い多項式による拡大体は等しくなる
というものです.
命題 3. を局所体, を 上既約な多項式, を の最小分解体, の整数環 の素イデアルによる 上の付値を, に対して とし, を の根, とおく.
また, で, 任意の に対して が成り立つとする. このとき次が成り立つ :
は 上既約
となる の根があり, .
証明 の根を とする. となるような の有限次拡大体 をとり, 付値を延長しておく. なので
\begin{align} \prod_{r=1}^{n} \vert \alpha - \beta_{r} \vert &= \vert \prod_{r=1}^{n} (\alpha - \beta_{r}) \\ &= \vert g(\alpha) \vert \\ &= \vert g(\alpha) - f(\alpha) \vert \\ &= \textrm{max} \{ \vert a_{i} - b_{i} \vert \cdot \vert \alpha \vert^{n-i} : i = 1, \ldots, n \} \\ &\lt c^{n} \end{align}
なので, となる が存在する. すると, クラスナーの補題より である.
同様にして, 各 に対して となる が存在する. よって, 写像 ができる. で なら となり, のとり方に矛盾する. よって は単射で, 定義域の集合は 元集合, 値域の集合の位数は 以下なので, 結局 元集合から 元集合への単射となり, 全単射とわかる.
\begin{align} \vert \beta_{r_{i}} - \beta_{r_{j}} \vert &= \vert \beta_{r_{i}} - \alpha_{i} + \alpha_{i} - \alpha_{j} + \alpha_{j} - \beta_{r_{j}} \vert \\ &= \vert \alpha_{i} - \alpha_{j} \vert \end{align}
となるので
ともなるので, 再びクラスナーの補題より となる. よって で より も 上既約である. (終)
これより, 次がわかります.
系 4. が局所体なら, 代数体 と の素イデアル があり, は の 進完備化と同型である.
証明 で を の 上の最小多項式とする. 命題 より 上の多項式 の係数が の係数に十分近ければ, の根 で となるものがある. この として の元をとれる. とすると は代数体である.
を素イデアルとすれば, は素イデアルである. であり, 進距離は 上では 進距離のベキである. の における閉包 は の 進距離による完備化であり, なので となる. (終)
他にも
- 次数 の局所体の同型類は有限個
- の代数閉包 の完備化は代数閉体
などを示すことができます.
今回はこれで終わります.
何か間違いなどがあれば教えてください
【参考文献】