ガランガラのブログ

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初学者向け群論解説 その14~正規部分群と剰余群~

今回は正規部分群とそこから得られる剰余群についてまとめてみます.

 

まずは正規部分群のとき, 左剰余類と右剰余類が一致することをみてみましょう.

補題 1.  N が群  G正規部分群 g \in G なら,  gN=Ng となる.

証明  gn \in gN,\ n \in N を任意にとる. このとき  N G正規部分群なので  gng^{-1} \in N であるから 

 gn = (gng^{-1}) g \in Ng

となる. よって  gN \subset Ng である. 逆の包含も同様. (終)

 

さて, 群  G正規部分群  N による商  G/N G からの自然に演算が定まり, 群となることをみていきます.

 G/N の二つの元  gN,\ hN \in G/H に対して

 (gN)(hN) := ghN

と定めます. といいつつ, この段階ではまだちゃんと定まっているかわかりません. つまり  \textrm{well-defined} かどうかを確かめないといけません. 何をしないといけないかというと

 gN=g'N,\ hN=h'N のとき  ghN=g'h'N

かどうかをチェックします.

補題 2.  gN=g'N,\ hN=h'N のとき  ghN=g'h'N.

証明 仮定より  g' \in gN,\ h' \in hN なので

 g'=gn,\ h'=hn'\ (n,\ n' \in N)

とかける. このとき  h^{-1}nh \in N なので  h^{-1}nhn' \in N であるから

 g'h'N = gnhn'N = gh(h^{-1}nh)n'N = ghN

となる. (終)

この補題より

 G/{N} \times G/{N} \to G/{N},\ (gN, hN) \mapsto ghN

 \textrm{well-defined}写像となる. そしてこの写像(演算)は  G/N に群構造を定めます.

定理 3.  G/{N} は先ほどの演算により群になる.

証明 

 (1) 単位元について: 1_{G}N = N 単位元となる. 実際任意の  gN \in G/{N} に対して  (1_{G}N)(gN) = (gN)(1_{G}N)=gN となる.

 (2) 結合法則について: gN, hN, kN \in G/{N} に対して

 \{(gN)(hN)\}(kN) = (ghN)(kN) = \{(gh)k\}N = \{g(hk)\}N = (gN)\{(hk)N\} = (gN)\{(hN)(kN)\}

よりOK.

 (3) 逆元について:任意の  gN \in G/{N} に対して  g^{-1}N が逆元である.

以上より  G/{N} は群になる. (終)

 

普通の部分群ではその部分群による商  G/{H} は自然には群にならないかもしれませんが正規部分群なら群になります.

定義 4.(剰余群)  G/N に先ほどの演算を入れたものを  G N による商群, または剰余群という.

 

自然な写像  \pi : G \to G/{N},\ g \mapsto gN について次が成り立ちます.

命題 5. 自然な写像  \pi : G \to G/{N} は群の全射準同型である. また  \textrm{Ker}(\pi) = N となる.

証明 全射性は  G/N の定義から明らか. また準同型であることも  G/N の演算の定義から明らか. 核については

 g \in \textrm{Ker}(\pi) \Longleftrightarrow gN=N \Longleftrightarrow g \in N

よりわかる. (終)

 

今回はこれで終わります.

 

何か間違いなどがあれば教えてください.

 

[参考文献]