ガランガラのブログ

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初学者向け群論解説 その6 ~元の位数~

ここでは「群の元の位数」についてまとめたいと思います.

一応前回の記事を載せておきます.

mathgara.hatenablog.com

位数というと群に対してその元の個数も位数といっていました. 少しややこしいかもしれませんが混乱しないように気を付けてください. 

さっそく定義しましょう.

定義 1. G の元  x \in G の位数  {\rm ord} (x)

 {\rm ord} (x) := {\rm min} \{ n \in \mathbb{N} \mid x^n=1_G \}

と定義する. ただし  \{ n \in \mathbb{N} \mid x^n=1_G \} = \emptyset の場合は  {\rm ord} (x):= \infty とする.

 

要するに, 群の元の位数とは 「演算を繰り返していつ初めて単位元になるか」を表すものになります.  少し具体例を見てみましょう.

 

 (1) G単位元  1_G の位数は  1 であり, 逆に位数が  1 となるのは単位元のみである.

 (2) 加法群  \mathbb{Z} 0 でない元の位数は  \infty である.

 (3)  3 次対称群  \mathfrak{S}_3 の元  (1\ 2) の位数は  (1\ 2) \not =1, (1\ 2)^2=1 より  2 である.  (1\ 2\ 3) の位数は  3 である.

 (4) 位数  n の有限巡回群  G の生成元を  g とすると  g の位数は  n である. 

 (5) より一般に, 群  G の元  x が生成する巡回部分群  \langle x \rangle に対して,  | \langle x \rangle | = {\rm ord} (x) が成り立つ. (証明は後述)

 

具体例を色々見てみると, 次のことが成り立つだろうと想像がつくかもしれません.

 

命題 2. 有限群  G の任意の元  x \in G の位数は有限である.

 

証明  x \in G を任意にとる. このとき  \{ 1_G, x, x^2, \cdots \} は有限集合  G の部分集合なので有限集合であるから, 鳩ノ巣原理よりある  i <  j が存在して  x^i=x^j となる. すると両辺  x^{-i} をかけて  x^{j-i}=1_G となる.  j-i自然数であり, {\rm ord} (x) \leq j-i より位数は有限である. (終)

 

ちなみにこの命題の逆には反例があります. 一番最後に載せておくので考えてみてください.

 

さて, 少し話がそれるように見えるかもしれませんが加法群  \mathbb{Z} の任意の部分群が巡回部分群であることを示します. これは  \mathbb{Z} がもつ大事な性質の一つです.

 

命題 3. 加法群  \mathbb{Z} の任意の部分群が巡回部分群である., すなわち  H を部分群とするとある整数  d \geq 0 が存在して  H=d \mathbb{Z} となる.

 

証明  H=\{ 0 \} の場合は明らかなので,  H \{ 0 \} でない部分群とする. 

このときまず  H には自然数が存在する. なぜなら,  x \in H \setminus \{ 0 \} とするとき, もし  x \in \mathbb{N} ならこの時点でOKであり, もしそうでないなら  H が部分群なので  x の逆元  -x H の元であり, こちらは  H に含まれる自然数となるからである.  

さて,  H には自然数が含まれることがわかったので  d H に含まれる最小の自然数とする. このとき,  H=d \mathbb{Z} となることを示す.

[ d \mathbb{Z} \subset H について] これは  d \in H H が部分群であることから明らかである.

[ H \subset d \mathbb{Z} について]  x \in H を任意にとる. このとき余りつき割り算をして  x=dq+r (0 \leq r \leq d-1) となる.  r=0 を示せば  x \in d \mathbb{Z} がいえる. 背理法で示す.  r \not = 0 と仮定する. ここで,  x, dq \in H で,  H は部分群なので  r=x-dq \in H となる. しかしこれは  d H に含まれる最小の自然数である ということに矛盾する. よって  r=0 であり  x \in d \mathbb{Z} となる. 

以上より  H=d \mathbb{Z} となる. (終) 

 

この命題を用いると一見当たり前に思える次のことがわかります.

 

命題 4.  G の元  x の位数が有限とし,  d とおく. このとき,  n \in \mathbb{Z} に対して次の  (1), (2) は同値である.

 (1)  x^n=1_G.

 (2)  n \in d \mathbb{Z}.

 

証明  (2) \Longrightarrow (1) は明らかなので逆を示す.

 H := \{ n \in \mathbb{Z} \mid x^n=1_G \}

とする. このとき  H \mathbb{Z} の部分群となる. よって  x の位数が有限であることと命題  3 よりある自然数  f が存在して  H=f \mathbb{Z} となる. このとき  d=f となることを示す.

まず位数の定義から明らかに  d \leq f である.

また,  x^d=1_G より  d \in H=f \mathbb{Z} なので  f \leq d である.

以上より  d=f である. (終)

 

また, 例  (5) の証明もしましょう.

 

命題 5.  G の有限な位数  d をもつ元  x が生成する巡回部分群  H=\langle x \rangle の位数は  d である.

 

証明  n \in \mathbb{Z} d で余りつき割り算をすると  n=qd+r (0 \leq r \leq d-1) となり,  x^n=x^{qd+r}=x^{qd} \cdot x^{r}=x^{r} より  H= \{ 1_G, x, \cdots, x^{d-1} \} となる. (まだ  |H|=d は言えてないことに注意)

 0 \leq i <  j \leq d-1 とする. このとき  x^i \not = x^j である. なぜならもし  x^i=x^j とすると  x^{j-i}=1_G となり,  j-i <  d なので  d x の位数ということに矛盾する. よって  | \{ 1_G, x, \cdots, x^{d-1} \} |=d となり  | H | =d である. (終)

 

元の位数は群を調べる際などに大事になることの一つなのでしっかり身に着けておくといいかと思います.

 

今回はこれで終わります.

 

何か間違いなどあれば教えてください.

 

[参考文献]

 

 

命題  2 の反例の紹介: G=\{ z \in \mathbb{C} \mid \exists n \in \mathbb{Z}, z^n=1 \} は通常の乗法で無限群になりますが, 任意の元  z の位数は有限になります.