ガランガラのブログ

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初学者向け群論解説 その19 ~置換表現~

前回は群の作用の定義などをまとめました.

mathgara.hatenablog.com

今回は 置換表現 といわれる群の作用の一種を扱います.

意外と院試などで使うテクニックでもあるのでぜひ目を通してみてください.

 

 G を群,  X = \{ x_{1}, \ldots, x_{n} \} とする.  G X に左から作用するとき,  i = 1, \ldots, n に対して  g \cdot x_{i} \in X なので,

 g \cdot x_{i} = x_{\rho(g)(i)} \tag{1}

とおく.  すなわち,  x_{i} g が作用したときの移り先の添え字を  \rho(g)(i) とおいている.

すると, 各  g \in G に対して  \rho(g) \{ 1, \ldots, n \} の置換を引き起こし, 写像

 \rho : G \to \mathfrak{S}_{n}

を定める.

命題 1.  \rho : G \to \mathfrak{S}_{n} は群の準同型である.

証明  g, h \in G, i = 1, \ldots, n に対して

 x_{\rho(gh)(i)} \overset{(1)}{=} (gh) \cdot x_{i} = g \cdot (h \cdot x_{i}) = g \cdot x_{\rho(h)(i)} = x_{\rho(g) \circ \rho(h)(i)}

となる. よって

 \rho(gh) = \rho(g) \circ \rho(h)

なので  \rho は準同型である. (終)

 

 

定義 2.(置換表現) 上の  \rho : G \to \mathfrak{S}_{n} G X への作用により定まる置換表現という.

注 3.  上のニュアンスは,

 G X への作用が対称群  \mathfrak{S}_{n} により表すことができる

みたいな感じです. 他にもいろいろな群の表現があり, 「表現論」という分野もあります.

 

置換表現の応用例をいくつか見ていきましょう. ポイントは有限集合  X として何をとってくるかです.

定理 4.(Cayley)  G を位数  n の有限群とする. このとき  G から  \mathfrak{S}_{n} への単射準同型が存在する.

証明  X = G として,  G G への左からの積による作用を考える. すると, 命題  1 より, 置換表現

 \rho : G \to \mathfrak{S}_{n}

が存在する. これが単射になることをいう.  g \in G に対して  \rho(g) = 1 とする. すると  g 1_{G} に作用したときの  1_{G} の行き先もまた  1_{G} である. すなわち

 g \cdot 1_{G} = 1_{G}

である. よって  g = 1_{G} となり  \textrm{Ker}(\rho) = \{ 1_{G} \} より  \rho単射である. (終)

注 5. この定理から, 任意の有限群はある対称群の部分群とみなせるということがわかる.

例 6.(剰余類への作用により定まる置換表現)  G を群,  H G の指数  n の部分群とし,  X = G/H = \{ x_{1}H=H, x_{2}H, \ldots, x_{n}H \} とおく. このとき,  g \in G, x_{i}H \in X に対して

  g \cdot (x_{i}H) = (gx_{i})H

により,  G X への左作用が定まり,  (gx_{i})H = x_{\rho(g)(i)}H により置換表現

 \rho : G \to \mathfrak{S}_{n}

が得られる.

これを用いて,, 永田先生の代数学の問題集「大学院への代数学演習」に載っている問題を解いてみましょう.

問題 7.  G を群,  H G の指数有限の部分群とする. このとき,  H G のある指数有限の正規部分群を含むことを示せ.

解答例  n H の指数,  X = G/H = \{ x_{1}H=H, x_{2}H, \ldots, x_{n}H \} とおく. 上の例  6 より置換表現

 \rho : G \to \mathfrak{S}_{n}

が存在する. この準同型の核  \textrm{Ker}(\rho) G の 指数有限な H に含まれる正規部分群であることを示す. まず, 一般に群準同型の核は正規部分群である.  また,

 G/{\textrm{Ker}(\rho)} \cong \textrm{Im}(\rho) \subset \mathfrak{S}_{n}

であることから指数有限であることもわかる. よってあとは  H に含まれることをいえばよい. 任意の  g \in \textrm{Ker}(\rho) に対して,  \rho(g) = 1 なので

 gH = gx_{1}H = x_{\rho(g)(1)}H = x_{1}H = H

となる. よって  g \in H となり  \textrm{Ker}(\rho) \subset H がわかる. (終)

 

今回はこれで終わります.

 

何か間違いなどがあれば教えてください.

 

【参考文献】