ガランガラのブログ

数学や好きな音楽について書くことが多いです。

(固定)初学者向け群論解説 その0 ~群論を始める準備~

群論をこれから学んでいく, いきたいと思っている人の多少の助けになりそうなことをまとめていきたいと思います. 

設定(想定対象者や到達目標など)

想定対象者は

数学科系の学生ではじめて群論を学ぶ, もしくは講義があったがよくわからなかった人

です.

僕自身が雪江明彦さんの「群論入門」を読んで学んだので基本的にこの本の流れなどに沿ってまとめていく予定です.

なので到達目標は

です. また定義や定理の理解だけでなく, 演習によってそれらにちゃんと慣れることができるようにしたいと思います. 

 

群論を始める前に

本題に入りますが, おそらく群論を始める前に, 大学の講義などで解析・線形代数・集合と位相などを学んだ方も多いと思います. ここではその中で群論を学ぶ前に身に着けておいたほうが学びがスムーズになると考えられる事柄をまとめていきたいと思います. 数学は学んでから慣れてちゃんと身につくまでに時間がかかることもあるのでじっくり丁寧に, 自分が身についているか確認してみてください.

  1.  \exists \forall などの記号を使った文章を正確に読み書きできる.
  2. 写像や集合に関する言葉の定義を正確に読み書きできる.
  3. 置換の計算がわかる.

基本的にはこれくらいができれば(多少できてなくても続けていけば慣れてできていくと思いますが)大丈夫だと思います. 少し確認問題をまとめてみます.

 

確認問題

 (1) 命題 「 \forall n \in \mathbb{N}, \exists m \in \mathbb{N}, n <  m」 の真偽を理由とともに答えよ.

 (2) 命題 「 \exists n \in \mathbb{N}, \forall m \in \mathbb{N}, n <  m」 の真偽を理由とともに答えよ.

 (3) 写像  f : X \to Y全射であることの定義を述べよ.

 (4) 写像  f : X \to Y単射であることの定義を述べよ.

 (5) 写像  f : \mathbb{R} \to \mathbb{R}, f(x)=x^2 に関して, 逆像  f^{-1}(\{1\}) を定義に基づいて求めよ.

 (6) 写像  f : X \to Y, 部分集合  A, B \subset X に関して,  f(A \cup B)=f(A) \cup f(B) を示せ.

 (7) 写像  f : X \to Y, 部分集合  A, B \subset X に関して,  f(A \cap B) \subset f(A) \cap f(B) を示せ.

 (8) 写像  f : X \to Y, 部分集合  C, D \subset Y に関して,  f^{-1}(C \cup D)=f^{-1}(C) \cup f^{-1}(D) を示せ.

 (8) 写像  f : X \to Y, 部分集合  C, D \subset Y に関して,  f^{-1}(C \cap D)=f^{-1}(C) \cap f^{-1}(D) を示せ.

 (9)  (1\ 2\ 3)(2\ 3) を計算せよ.

 

これらの問題がわりとスムーズに解ければ大丈夫だと思います.

 

何か間違いなどあれば教えてください.

 

[参考文献]

 

 

 

 

 

 

クラスナーの補題とその応用

ここでは, 「クラスナーの補題という定理とその応用を紹介します.

以下では次を仮定します.

  •  A \textrm{Dedekind} 整域
  •  K A の商体で標数  0
  •  x \in A \setminus \{ 0 \} に対して,  A/{(x)} は有限集合
  •  L/K は拡大次数  n の有限次拡大
  •  B A L における整閉包

では早速定理を述べていきましょう.

定理 1.(Krasner's lemma) 上の仮定にさらに,  A, B を完備離散付値環,  L/K \textrm{Galois} 拡大とする.  B の素イデアルによる  L 上の付値を,  x \in L に対して  \vert x \vert とする.  \alpha, \beta \in L とし,  \sigma \in \textrm{Gal}(L/K) \sigma(\alpha) \not= \alpha ならば  \vert \beta - \alpha \vert \lt \vert \sigma(\alpha) - \alpha \vert とする. このとき,  \alpha \in K(\beta) である.

注 2. 証明に入る前にざっくり内容を言葉で書いておくと

 \beta \alpha の共役よりも  \alpha に近いなら  \alpha \in K(\beta)

ということになります. では, 証明していきましょう.

証明  \tau \in \textrm{Gal}(L/{K(\beta)}) とする.  \tau(\alpha) = \alpha がいえれば,  \textrm{Galois} の基本定理より  \alpha \in K(\beta) が示せる. まず,  B は離散付値環で素イデアルは一つだけなので,  \tau B の素イデアルを不変にする. よって  x \in L に対して  \vert \tau(x) \vert = \vert x \vert である.

 \vert \tau(\alpha) - \beta \vert = \vert \tau(\beta - \alpha) \vert = \vert \beta - \alpha \vert \tag{1}

なので,  \tau(\alpha) \not= \alpha なら

 \vert \tau(\alpha) - \alpha \vert = \vert \tau(\alpha) - \beta + \beta - \alpha \vert \leq \textrm{max} \{ \vert \tau(\alpha) - \beta \vert, \vert \beta - \alpha \vert \} \overset{(1)}{=} \vert \beta - \alpha \vert \lt \vert \tau(\alpha) - \alpha \vert

となり矛盾. よって  \tau(\alpha) = \alpha となり,  \alpha \in K(\beta) となる. (終) 

次の命題は

係数が近い多項式による拡大体は等しくなる

というものです.

命題 3.  K を局所体,  f(x) = x^{n} + a_{1}x^{n-1} + \cdots + a_{n} \in K \lbrack x \rbrack K 上既約な多項式,  L/K f(x) の最小分解体,  L の整数環  \mathcal{O}_{L} の素イデアルによる  L 上の付値を,  x \in L に対して  \vert x \vert とし,  \alpha = \alpha_{1}, \ldots, \alpha_{n} \in L f(x) の根,  c = \textrm{min} \{ \vert \alpha_{i} - \alpha_{j} \vert : i \not= j \} とおく.

また,  g(x) = x^{n} + b_{1}x^{n-1} + \cdots + b_{n} \in K \lbrack x \rbrack で, 任意の  i = 1, \ldots, n に対して  \vert a_{i} - b_{i} \vert \cdot \vert \alpha \vert^{n-i} \lt c^{n} が成り立つとする. このとき次が成り立つ :

 (1)  g(x) K 上既約

 (2)  \vert \alpha - \beta \vert \lt c となる  g(x) の根があり,  K(\alpha) = K(\beta).

証明  g(x) の根を  \beta_{1}, \ldots, \beta_{n} とする.  L \subset F, \beta_{1}, \ldots, \beta_{n} \in F となるような  K の有限次拡大体  F をとり, 付値を延長しておく.  f(\alpha) = 0 なので

\begin{align} \prod_{r=1}^{n} \vert \alpha - \beta_{r} \vert &= \vert \prod_{r=1}^{n} (\alpha - \beta_{r}) \\ &= \vert g(\alpha) \vert \\ &= \vert g(\alpha) - f(\alpha) \vert \\ &= \textrm{max} \{ \vert a_{i} - b_{i} \vert \cdot \vert \alpha \vert^{n-i} : i = 1, \ldots, n \} \\ &\lt c^{n} \end{align}

なので,  \vert \alpha - \beta_{r} \vert \lt c となる  r が存在する. すると, クラスナーの補題より  \alpha \in K(\beta_{r}) である.

同様にして, 各  \alpha_{i} に対して  \vert \alpha_{i} - \beta_{r_{i}} \vert \lt c となる  r_{i} が存在する. よって, 写像  i \mapsto r_{i} ができる.  i \not= j \vert \alpha_{i} - \beta_{s} \vert, \vert \alpha_{j} - \beta_{s} \vert \lt c なら  \vert \alpha_{i} - \alpha_{j} \vert \lt c となり,  c のとり方に矛盾する. よって  i \mapsto r_{i}単射で, 定義域の集合は  n 元集合, 値域の集合の位数は  n 以下なので, 結局  n 元集合から  n 元集合への単射となり, 全単射とわかる.

\begin{align} \vert \beta_{r_{i}} - \beta_{r_{j}} \vert &= \vert \beta_{r_{i}} - \alpha_{i} + \alpha_{i} - \alpha_{j} + \alpha_{j} - \beta_{r_{j}} \vert \\ &= \vert \alpha_{i} - \alpha_{j} \vert \end{align}

となるので

 \vert \alpha - \beta_{r} \vert \lt \textrm{min} \{ \vert \beta_{r_{i}} - \beta_{r_{j}} \vert : i \not= j \}

ともなるので, 再びクラスナーの補題より  K(\beta_{r}) \subset K(\alpha) となる. よって  K(\alpha) = K(\beta_{r}) \lbrack K(\alpha) : K \rbrack = n より  g(x) K 上既約である. (終)

これより, 次がわかります.

系 4.  L が局所体なら, 代数体  K \mathcal{O}_{K} の素イデアル  \mathfrak{p} があり,  L K \mathfrak{p} 進完備化と同型である.

証明  L = \mathbb{Q}_{p}(\alpha) f(x) \alpha \mathbb{Q}_{p} 上の最小多項式とする. 命題  3 より  \mathbb{Q}_{p} 上の多項式  g(x) の係数が  f(x) の係数に十分近ければ,  g(x) の根  \beta L = \mathbb{Q}_{p}(\beta) となるものがある. この  g(x) として  \mathbb{Q} の元をとれる.  K = \mathbb{Q}(\beta) とすると  K は代数体である. 

 \mathfrak{P} \subset \mathcal{O}_{L} を素イデアルとすれば,  \mathfrak{p} := \mathfrak{P} \cap \mathcal{O}_{K} は素イデアルである.  \mathfrak{p} \cap \mathbb{Z} = p \mathbb{Z} であり,  \mathfrak{P} 進距離は  K 上では  \mathfrak{p} 進距離のベキである.  K L における閉包  \hat{K} K \mathfrak{p} 進距離による完備化であり,  \mathbb{Q}_{p} \subset \hat{K} なので  \hat{K} = \mathbb{Q}_{p}(\beta) = \mathbb{Q}_{p}(\alpha) = L となる. (終)

 

他にも

  • 次数  n の局所体の同型類は有限個
  •  \mathbb{Q}_{p} の代数閉包  \overline{\mathbb{Q}_{p}} の完備化は代数閉体

などを示すことができます.

 

今回はこれで終わります.

 

何か間違いなどがあれば教えてください

 

【参考文献】

 

 

 

初学者向け群論解説 その19 ~置換表現~

前回は群の作用の定義などをまとめました.

mathgara.hatenablog.com

今回は 置換表現 といわれる群の作用の一種を扱います.

意外と院試などで使うテクニックでもあるのでぜひ目を通してみてください.

 

 G を群,  X = \{ x_{1}, \ldots, x_{n} \} とする.  G X に左から作用するとき,  i = 1, \ldots, n に対して  g \cdot x_{i} \in X なので,

 g \cdot x_{i} = x_{\rho(g)(i)} \tag{1}

とおく.  すなわち,  x_{i} g が作用したときの移り先の添え字を  \rho(g)(i) とおいている.

すると, 各  g \in G に対して  \rho(g) \{ 1, \ldots, n \} の置換を引き起こし, 写像

 \rho : G \to \mathfrak{S}_{n}

を定める.

命題 1.  \rho : G \to \mathfrak{S}_{n} は群の準同型である.

証明  g, h \in G, i = 1, \ldots, n に対して

 x_{\rho(gh)(i)} \overset{(1)}{=} (gh) \cdot x_{i} = g \cdot (h \cdot x_{i}) = g \cdot x_{\rho(h)(i)} = x_{\rho(g) \circ \rho(h)(i)}

となる. よって

 \rho(gh) = \rho(g) \circ \rho(h)

なので  \rho は準同型である. (終)

 

 

定義 2.(置換表現) 上の  \rho : G \to \mathfrak{S}_{n} G X への作用により定まる置換表現という.

注 3.  上のニュアンスは,

 G X への作用が対称群  \mathfrak{S}_{n} により表すことができる

みたいな感じです. 他にもいろいろな群の表現があり, 「表現論」という分野もあります.

 

置換表現の応用例をいくつか見ていきましょう. ポイントは有限集合  X として何をとってくるかです.

定理 4.(Cayley)  G を位数  n の有限群とする. このとき  G から  \mathfrak{S}_{n} への単射準同型が存在する.

証明  X = G として,  G G への左からの積による作用を考える. すると, 命題  1 より, 置換表現

 \rho : G \to \mathfrak{S}_{n}

が存在する. これが単射になることをいう.  g \in G に対して  \rho(g) = 1 とする. すると  g 1_{G} に作用したときの  1_{G} の行き先もまた  1_{G} である. すなわち

 g \cdot 1_{G} = 1_{G}

である. よって  g = 1_{G} となり  \textrm{Ker}(\rho) = \{ 1_{G} \} より  \rho単射である. (終)

注 5. この定理から, 任意の有限群はある対称群の部分群とみなせるということがわかる.

例 6.(剰余類への作用により定まる置換表現)  G を群,  H G の指数  n の部分群とし,  X = G/H = \{ x_{1}H=H, x_{2}H, \ldots, x_{n}H \} とおく. このとき,  g \in G, x_{i}H \in X に対して

  g \cdot (x_{i}H) = (gx_{i})H

により,  G X への左作用が定まり,  (gx_{i})H = x_{\rho(g)(i)}H により置換表現

 \rho : G \to \mathfrak{S}_{n}

が得られる.

これを用いて,, 永田先生の代数学の問題集「大学院への代数学演習」に載っている問題を解いてみましょう.

問題 7.  G を群,  H G の指数有限の部分群とする. このとき,  H G のある指数有限の正規部分群を含むことを示せ.

解答例  n H の指数,  X = G/H = \{ x_{1}H=H, x_{2}H, \ldots, x_{n}H \} とおく. 上の例  6 より置換表現

 \rho : G \to \mathfrak{S}_{n}

が存在する. この準同型の核  \textrm{Ker}(\rho) G の 指数有限な H に含まれる正規部分群であることを示す. まず, 一般に群準同型の核は正規部分群である.  また,

 G/{\textrm{Ker}(\rho)} \cong \textrm{Im}(\rho) \subset \mathfrak{S}_{n}

であることから指数有限であることもわかる. よってあとは  H に含まれることをいえばよい. 任意の  g \in \textrm{Ker}(\rho) に対して,  \rho(g) = 1 なので

 gH = gx_{1}H = x_{\rho(g)(1)}H = x_{1}H = H

となる. よって  g \in H となり  \textrm{Ker}(\rho) \subset H がわかる. (終)

 

今回はこれで終わります.

 

何か間違いなどがあれば教えてください.

 

【参考文献】

 

 

 

A ⊂ B かつ A と B の間に全単射があるなら A=B か?

今回は

 A \subset B かつ  A B の間に全単射が存在するなら  A=B か?

を考えます. 

以下では, 集合  X に対して  \vert X \vert X の濃度(元の個数)を表すとします.

まず, 有限集合においては次が成り立ちます.

命題 1.  A, B を有限集合とし,  A \subset B とする. このとき,  A B の間に全単射が存在するならば  A=B である.

証明 まず  A \subset B なので

 \vert A \vert \leq \vert B \vert

が成り立つ. また,  A B の間に全単射, 特に全射が存在するので

 \vert A \vert \geq \vert B \vert

となる. よって  A=B となる. (終) 

 

よって有限集合の場合は今回のテーマの命題は成り立つのですが, 無限集合になると反例が出てきます.

反例 2.  \mathbb{Z} を整数全体の集合,  2\mathbb{Z} を偶数全体の集合とする. このとき,  2\mathbb{Z} \subset \mathbb{Z} かつ全単射

 f : \mathbb{Z} \to 2\mathbb{Z}, \quad n \mapsto 2n

が存在するが,  2\mathbb{Z} \not= \mathbb{Z} である.

では, 考えている対象が群や環, 体などならどうなるでしょう. 

とはいっても上の反例はアーベル群  \mathbb{Z}, 2\mathbb{Z} とその間の群の同型  f : \mathbb{Z} \to 2\mathbb{Z} という見方もできるので反例になっています. 

環においては, 例えば次のような反例があります.

反例 3.  \mathbb{R} \lbrack x \rbrack を実数係数多項式環とする. このとき,  \mathbb{R} \lbrack x^2 \rbrack \mathbb{R} \lbrack x \rbrack の真の部分環であり, 同型

 \phi : \mathbb{R} \lbrack x \rbrack \to \mathbb{R} \lbrack x^2 \rbrack, \quad f(x) \mapsto f(x^{2})

が存在するが,  \mathbb{R} \lbrack x \rbrack \not= \mathbb{R} \lbrack x^2 \rbrack

体においても同じような反例が作れますが, 有限集合のときと同様に, 有限体のときはテーマの命題が成り立ちます.

 

また機会があれば, 他の対象についても同様のことを考えてみたいと思います.

 

今回はこれで終わります.

 

何か間違いなどがあれば教えてください.

 

【参考文献】

 

 

 

 

初学者向け群論解説 その18 ~群の作用の定義と例~

ここでは, 群の作用を定義し, いくつか具体例を見ていきたいと思います.

 

定義 1.(群の作用)  G を群,  X を集合とする. このとき, 群  G の集合  X への左作用とは, 写像

 \rho : G \times X \to X, \quad (g, x) \mapsto g \cdot x

で, 次の  (1), (2) を満たすもののことである:

 (1)  \rho(1_{G}, x) = x.

 (2)  \rho(g, \rho(h, x)) = \rho(gh, x).

 

注意. 上の条件  (2)

 h を作用させたものにさらに  g を作用させたもの」と「 gh を作用させたもの」が等しい

ということである.

左作用の条件 (2) のイメージ

注意.  G X への左作用には,  \rho(g, x) のかわりに  g \cdot x と書くこともある.

 

例.1.1(自明な作用)  G を群,  X を集合としたとき

 G \times X \to X, \quad (g, x) \mapsto x

は明らかに左作用である. これを  G X への自明な作用という. 右作用の場合も同様である.

例.1.2  G n 次対称群  \mathfrak{S}_{n}, X = \{ 1, 2, \ldots, n \} とする. このとき, 写像

 \mathfrak{S}_{n} \times X \to X, \quad (\sigma, i) \mapsto \sigma(i)

は左作用となる. 実際,  1_{G} = 1 (恒等写像) は 左作用の条件  (1) を満たし, 条件  (2) は,  \sigma, \tau \in \mathfrak{S}_{n}, i \in X に対して

 (\sigma \tau)(i) = \sigma(\tau(i))

が置換の積の定義であることから満たす.

 

最後に, 一つ命題を紹介する.

命題 2. G が集合  X に左から作用しているとする. このとき, 任意の  g \in G に対して,  g から定まる写像

 L_{g} : X \to X, \quad x \mapsto \rho(g, x)

全単射である.

証明 任意の  g \in G に対して

 L_{g^{-1}} : X \to X, \quad x \mapsto \rho(g^{-1}, x)

 L_{g} の逆写像である. 実際, 任意の  x \in X に対して

 L_{g} \circ L_{g^{-1}}(x) = L_{g}(\rho(g^{-1}, x)) = \rho(g, \rho(g^{-1}, x)) \overset{(2)}{=} \rho(g g^{-1}, x) \overset{(1)}{=} \rho(1_{G}, x) = x

であり, 同様に

 L_{g^{-1}} \circ L_{g}(x) = L_{g^{-1}}(\rho(g, x)) = \rho(g^{-1}, \rho(g, x)) \overset{(2)}{=} \rho(g^{-1} g, x) \overset{(1)}{=} \rho(1_{G}, x) = x

となるので

 L_{g} \circ L_{g^{-1}} = L_{g^{-1}} \circ L_{g} = \textrm{id}_{X}.

よって

 L_{g^{-1}} = L_{g}^{-1}

である. よって  L_{g}全単射. (終)

 

今回はこれで終わります.

 

何か間違いなどがあれば教えてください.

 

【参考文献】

 

 

 

 

 

位数2023の群

あけましておめでとうございます.  2023 年になりました.

 2023 ということで, ここでは位数  2023 の群を決定しようと思います.

命題 1. 位数  2023 の群はアーベル群であり, 次のいずれかと同型になる.

  •  \mathbb{Z}/{7 \mathbb{Z}} \times \mathbb{Z}/{289 \mathbb{Z}}
  •  \mathbb{Z}/{7 \mathbb{Z}} \times \mathbb{Z}/{17 \mathbb{Z}} \times \mathbb{Z}/{17 \mathbb{Z}} 

証明  G を位数  2023 の群とする. 

 2023 = 7 \times 17^{2}

であるので, シロー  7 部分群  H と シロー  17 部分群  K が存在する. このとき,  H の位数は  7素数なので  H \cong \mathbb{Z}/{7 \mathbb{Z}} となり,  K の位数は  17^{2} で, 素数 2 乗なのでアーベル群となり,  K \cong \mathbb{Z}/{289 \mathbb{Z}} もしくは  K \cong \mathbb{Z}/{17 \mathbb{Z}} \times \mathbb{Z}/{17 \mathbb{Z}} となる. それぞれの共役の個数を  s,\ t とすると,  s,\ t 2023 の約数であり,

 s \equiv 1 \mod 17,

 t \equiv 1 \mod 7

が成り立つが, 

 17 \equiv 3 \mod 7,

 7 \equiv 7 \mod 17

より,  s = t = 1 しかありえない. よってそれぞれの共役は  1 個ずつ存在するので,  H,\ K はともに  G正規部分群であり,  G \cong H \times K となる. よって命題の主張が成り立つ. (終)

 

今回はこれで終わります.

 

何か間違いなどがあれば教えてください.

 

【参考文献】

 

 

f ∘ f = f となる群準同型 f : G → G について

問題.(Selected Exercises in Algebra. 140)  G を群とし,  f :  G \to G f \circ f = f となる群準同型とする. このとき以下を示せ.

 (1)\ \textrm{Ker}(f) \cap \textrm{Im}(f) = \{ e \}.

 (2)\ G = \textrm{Ker}(f) \cdot \textrm{Im}(f).

 

解答例. 

 (1)  g \in \textrm{Ker}(f) \cap \textrm{Im}(f) を任意にとる.  g \in \textrm{Ker}(f) なので

 f(g) = e.

また,  g \in \textrm{Im}(f) より ある  x \in G が存在して

 g = f(x).

仮定より  f \circ f = f なので

 g = f(x) = f \circ f(x) = f(g) = e.

よって  \textrm{Ker}(f) \cap \textrm{Im}(f) = \{ e \} となる.

 (2)   G \supseteq \textrm{Ker}(f) \cdot \textrm{Im}(f) は明らかなので逆方向の包含を示す.

 g \in G を任意にとる. このとき, 明らかに  f(g) \in \textrm{Im}(f) である. すると,  f \circ f = f なので  f(f(g)) = f(g) より

 f(g \cdot f(g)^{-1}) = e.

よって

 g \cdot f(g)^{-1} \in \textrm{Ker}(f).

したがって

 g = (g \cdot f(g)^{-1}) \cdot f(g) \in \textrm{Ker}(f) \cdot \textrm{Im}(f)

となる. (終)

 

今回はこれで終わります.

 

何か間違いなどがあれば教えてください.

 

[参考文献]

 

 

初学者向け群論解説 その17 ~準同型定理その3(準同型の分解)~

前回は第二同型定理, 第三同型定理についてまとめました.


mathgara.hatenablog.com


今回は準同型の分解についてまとめます.


定理 1.(準同型の分解)  G, H を群とし,  \phi : G \to H を準同型とする. さらに  N \triangleleft G正規部分群とし,  \pi : G \to G/{N} を自然な全射準同型とする. このとき下図が可換図式となるような準同型  \psi : G/{N} \to H が存在するための必要十分条件 N \subset \textrm{Ker}(\phi) となることである.

\begin{xy} \xymatrix{ G \ar[r]^{\phi} \ar[d]_{\pi} & H \\ G/{N} \ar@{.>}[ur]_{\psi} } \end{xy}

証明 条件をみたすような準同型  \psi が存在したとする. すると,  N = \textrm{Ker}(\pi) \subset \textrm{Ker}(\psi \circ \pi) = \textrm{Ker}(\phi) となり OK.

逆に  N \subset \textrm{Ker}(\phi) とする. このとき第二同型定理より, 準同型  f : G/{N} \to G/{\textrm{Ker}(\phi)} ; f(gN)=g \textrm{Ker}(\phi) が存在する. すると自然な全射準同型  \pi' : G \to G/{\textrm{Ker}(\phi)} に対して, 準同型定理より 準同型  \psi' : G/{\textrm{Ker}(\phi)} \to H \phi = \psi' \circ \pi' となるものが存在する. 明らかに  f \circ \pi = \pi' なので,  \psi = \psi' \circ f とおけば OK. (終)

これで一応準同型定理についてまとめ終わりました. 引き続き群の作用などもまとめていこうと思います.

今回はこれで終わります.

何か間違いなどがあれば教えてください.

[参考文献]