ガランガラのブログ

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Hilbert の分岐理論 その1 ~代数体の拡大と素イデアルの分解~

Hilbert の分岐理論という面白い話があるのですが, 一回では説明しきれないので何回かに分けて, 大体ノイキルヒの1章の8~10節あたりの話を簡単に証明などは省いてまとめていきたいと思います. 今回は8節あたりとその具体例をまとめたいと思います. 

 

定義 1.(分岐指数・相対次数・その他分解についての概念)

 L/K を代数体の有限次拡大 ( n 次とする),  A, B をそれぞれ  K, L の整数環とする.  \mathfrak{p} \subset A (0) でない素イデアルとし,  B における素イデアル分解を

 \mathfrak{p}B=\mathfrak{P}_{1}^{e_1} \cdots \mathfrak{P}_{r}^{e_r}

とする. このとき

  1.  各 e_i分岐指数という.
  2. 体の拡大次数  f_i=[B/\mathfrak{P_i} : A/\mathfrak{p} ]相対次数という.
  3.  r=n のとき  \mathfrak{p} B完全分解するという.
  4.  r=1 のとき 不分解 という.
  5.  e_i=1 (\forall i) かつ剰余体の拡大が分離拡大のとき 不分岐 という. そうでないとき分岐するという.
  6.  f_i=1 (\forall i) のとき 完全分岐 という.

定理 2.(基本等式) 上の設定にさらに, 分離拡大という仮定をつけると次が成り立つ.

 \displaystyle n=\sum_{i=1}^{r}e_{i}f_{i}

 

では, 細かい議論は省いてしまいますが具体例を見てみましょう. 

例 1. (二次体)  L=\mathbb{Q}(\sqrt{-1}), K=\mathbb{Q} のとき  n=2 であり  A=\mathbb{Z}, B=\mathbb{Z}[\sqrt{-1}] になります. 例えば 

 1. \ \mathfrak{p}_{1}=2\mathbb{Z} のとき :

  2\mathbb{Z} [\sqrt{-1} ]=(1+\sqrt{-1})^2,  [\ \mathbb{Z} [ \sqrt{-1} ]/(1+\sqrt{-1}) : \mathbb{Z}/(2) ]=1 より

 e=2 ,  f=1 ,  r=12 = 2 × 1

となり, たしかに基本等式が成り立っています. また, これは完全分岐になっています.

 2. \ \mathfrak{p}_{2}=5\mathbb{Z} のとき :

  5\mathbb{Z} [\sqrt{-1} ]=(2+\sqrt{-1})(2-\sqrt{-1}),  [\ \mathbb{Z} [ \sqrt{-1} ]/(2 \pm \sqrt{-1}) : \mathbb{Z}/(5) ]=1 より

  e_1=e_2=1 ,  f_1=f_2=1 ,  r=22 = (1 × 1) + (1 × 1)

となり, これもたしかに基本等式が成り立っています. また, これは完全分解になっています.

 

 3. \ \mathfrak{p}_{3}=3\mathbb{Z} のとき :

  3 \mathbb{Z} [ \sqrt{-1} ] はもともと素イデアルであり,  [\ \mathbb{Z} [ \sqrt{-1} ]/(3) : \mathbb{Z}/(3) ]=2 より

 e=1 ,  f=2 ,  r=12 = 1 × 2

となり, たしかに基本等式が成り立っています. また, これは不分解になっています.

実は今回の拡大においての素数の分解のパターンは上の3つだけで

  1.   p=2 のとき完全分岐 ( e=2, f=1, r=1)  \leftarrow 1 つだけ (有限個
  2.   p \equiv 1 mod  4 のとき完全分解 ( e=1, f=1, r=2)
  3.   p \equiv 3 mod  4 のとき不分解 ( e=1, f=2, r=1)

となります. 一般に分岐するものに関しては判別式を調べればよく, 実は高々有限個になることが知られています. このような二次体での素数の分解は平方剰余の相互法則などと関係があるのでまた詳しくまとめていきたいと思います.

 

例 2. (円分体)  L=\mathbb{Q}(\zeta_{5}), K=\mathbb{Q} のとき  A=\mathbb{Z}, B=\mathbb{Z}[\zeta_{5}] になります.  このときの素数の分解パターンは

  1.   p=5 のとき 完全分岐 ( (5)=(1-\zeta_{5})^4)
  2.   p \equiv 1 mod  5 のとき完全分解 ( (11)=(11, \zeta_{5}-3)(11, \zeta_{5}-4)(11, \zeta_{5}-5)(11, \zeta_{5}-9))
  3.   p \equiv 2, 3 mod  5 のとき不分解
  4.   p \equiv 4 mod  5 のとき  e=1, f=2, r=2 

となります. 円分体での素数の分解もまたいつかまとめたいと思います.

 

何か間違いなどあれば教えてください.

 

[参考文献]