ガランガラのブログ

数学や好きな音楽について書くことが多いです。

イデアルの和と積の定義

ここではイデアルの和と積の定義についてまとめたいと思います.

基本的なことではあるのですが, わりと最初は定義を勘違いしやすいと思うので読んでみてください.

まずはイデアルの定義を確認しましょう. なおここでは環といったら可換環のことを意味することにします.

 

定義 1.(イデアル)  A を環,  I \subset A が次を満たすとき,  Aイデアルという:

 (1)  A の加法部分群である.

 (2)  a \in A, x \in I ならば  ax \in I.

 

イデアルは整数の「 n の倍数全体の集合」の一般化にあたる概念です. 実際,  n \mathbb{Z} \subset \mathbb{Z}イデアルになります. なぜなら 

  •  0 \in n \mathbb{Z}
  •  n の倍数どうしの和や差はまた  n の倍数になる
  • 整数と  n の倍数をかけると  n の倍数になる

からです.

 

あとの具体例で使うので, 環  A の部分集合で生成されるイデアルを定義しておきます. 

定義 2.(生成されるイデアル) まず, 環  A の有限部分集合  S = \{ s_1, \cdots, s_n \} に対して,  S で生成されるイデアル

 (S) := \{ a_1 s_1 + \cdots + a_n s_n \mid a_i \in A \}

と定め, 簡単に  (s_1, \cdots, s_n) とかく. 特に  S=\{ s \} と一点集合のときは  (s) (=sA) とかく.

 S が無限部分集合なら, 

 (S) := \{  a_1 s_1 + \cdots + a_n s_n \mid n \in \mathbb{N}, a_i \in A, s_i \in S \}

と定める.

 

ではイデアルの和や積も定義しましょう.

まずは和からです. あ, ちなみに「和から」っていう数学教室の会社さんがありますね. 

定義 3.(イデアルの和) Aイデアル  I, J に対して

 I+J := \{ x+y \mid x \in I, y \in J \}

はまた  Aイデアルになり, イデアル  I, J の和という.

 

これはまだ定義自体はわかりやすいでしょうか. 直感的ですよね. 実際にイデアルになることを確かめてみましょう.

まず,  0=0+0 \in I+J である. 

そして, 任意の  a, b \in I+J について, 定義よりある  x_1, x_2 \in I, y_1, y_2 \in J が存在して  a=x_1+y_1, b=x_2+y_2 となる. よって  I, Jイデアルなので

 a-b=(x_1+y_1)-(x_2-y_2)=(x_1-x_2)+(y_1-y_2) \in I+J

となり  I+J は加法部分群である.

さらに, 任意の  a \in A, x+y \in I+J に対して

 a(x+y)=ax+ay \in I+J\ \ ( I, Jイデアルだから  ax \in I, ay \in J)

なので, 以上より  I+J Aイデアルになる.

 

少し例を考えてみましょう.

 \mathbb{Z}イデアル  2 \mathbb{Z} 3 \mathbb{Z} の和はどうなるでしょうか. 定義通りかくと

 2 \mathbb{Z} + 3 \mathbb{Z} = \{ 2m+3n \mid m, n \in \mathbb{Z} \}

となりますね. この集合は結局何になるかというと・・・ \mathbb{Z} になります.

なぜなら

  •  1=2\cdot(-1)+3 \in 2 \mathbb{Z} + 3 \mathbb{Z}
  • 任意の整数  k に対して  k=1 \cdot k=2 \cdot (-k)+3 \cdot k \in 2 \mathbb{Z} + 3 \mathbb{Z}

となるからです. 一般には  m, n \in \mathbb{Z} に対して  d m, n最大公約数 として

 m \mathbb{Z} + n \mathbb{Z} = d \mathbb{Z}

となります. 証明はユークリッドの互除法を使えば上の時と同じ要領でできます.

 

次はイデアルの積です. 

定義 4.  Aイデアル  I, J に対して

 IJ := \{ x_1 y_1 + x_2 y_2 + \cdots + x_n y_n \mid n \in \mathbb{N}, x_i \in I, y_i \in J\}

はまた  Aイデアルになり, イデアル  I, J の積という.

 

どうですか. ちょっと何言ってるかわかりそうでわからない感じになりませんか.

生成されるイデアルの言葉で言うと,  S = \{ xy \mid x \in I, y \in J \} で生成されるイデアルということです.

たぶん, 疑問としてわくのは

 S = \{ xy \mid x \in I, y \in J \} I J の積としてはダメなのか?

ということだと思います.

 

少し具体例で考えてみましょう. 先ほどと同様に  \mathbb{Z}イデアル  I=2 \mathbb{Z} J=3 \mathbb{Z} だとどうなるでしょうか.

実はこの場合は

 S = \{ 6k \mid k \in \mathbb{Z} \}

となりイデアルになります. 

実は

 m \mathbb{Z} n \mathbb{Z} = mn \mathbb{Z}

となります. 

 

ですが, 次のような反例があります.

 A=\mathbb{R} [ X, Y ], I=(X, Y), J=(X+1, Y+1) とすると   X(X+1) \in S, Y(Y+1) \in S ですが, その和  X(X+1)+Y(Y+1) は きれいに  I の元と  J の元の積という形には表せません. 

なので少しややこしく見える定義は, イデアルにするためにその和も入るような定義になっているというわけです.

 

こんな感じで, 少しでも何か引っかかる定義などに出会ったら反例がないか考えてみると理解が深まると思います. 最初のうちは難しいと思いますが, めげずにくり返しくり返し考えるクセをつけておくといいと思います. 今回はこれで終わります.

 

何か間違いなどあれば教えてください.

 

[参考文献]