ガランガラのブログ

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初学者向け群論解説 その8~準同型写像の性質~

前回は準同型写像の定義と具体例をまとめました.

mathgara.hatenablog.com

今回は準同型写像の性質についてまとめていきます.

はじめにまず次の二つの重要な部分群を定義します.

 

定義 1.(核と像)  G, H を群,  \phi : G \to H を準同型とする. このとき

  •  {\rm Ker} (\phi) := \{ x \in G \mid \phi(x)=1_H \} \phiという. (カーネルと読む)
  •  {\rm Im} (\phi) := \{ y \in H \mid \exists x \in G \ {\rm s.t.}\  y= \phi(x) \} \phiという. (イメージと読む)

 

さて, 核と像を定義しましたが, これらが実際に部分群になっていることなども含めて準同型の性質を見ていきましょう.

 

命題 2.  G, H を群,  \phi : G \to H を準同型とする. このとき次が成り立つ.

 (1)  \phi(1_G)=1_H.

 (2) 任意の  x \in G に対し,  \phi(x^{-1})=\phi(x)^{-1}.

 (3)  {\rm Ker} (\phi), {\rm Im} (\phi) はそれぞれ  G, H の部分群である.

証明 

 (1) について: \phi(1_G)=\phi(1_G 1_G)=\phi(1_G) \phi(1_G) なので両辺  \phi(1_G)^{-1} をかけてOK.

 (2) について:何を示せばいいかは大丈夫でしょうか.  " \phi(x^{-1}) \phi(x)=1_H "を示せば逆元の一意性より  \phi(x^{-1})=\phi(x)^{-1} が言えます.  \phi準同型写像なので  (1) も使いつつ

 \phi(x^{-1}) \phi(x)= \phi(x^{-1} x)=\phi(1_G)=1_H

となりOK.

 (3) について:部分群の判定法は前に部分群をまとめた際に触れているのでリンクを一応貼っておきます.

mathgara.hatenablog.com

 {\rm Ker} (\phi) について:

まず  (1) より  1_G \in {\rm Ker} (\phi) はOK.

また,  x, y \in {\rm Ker} (\phi) を任意にとったとき, 

 \phi(xy)=\phi(x) \phi(y)=1_H 1_H=1_H

より  xy \in {\rm Ker} (\phi) となり積に関して閉じていることもOK.

 x \in {\rm Ker} (\phi) を任意にとったとき,  (2) を使うと, 

 \phi(x^{-1})=\phi(x)^{-1}=1_H^{-1}=1_H

より逆元に関して閉じていることもOK. 以上より  {\rm Ker} (\phi) G の部分群である.

 {\rm Im} (\phi) について:

これもまず  (1) より  1_H \in {\rm Im} (\phi) はOK.

 y_1, y_2 \in {\rm Im} (\phi) を任意にとると, 定義からある  x_1, x_2 \in G が存在して  y_i=\phi(x_i), \ (i=1, 2) とかける. すると

 y_1 y_2=\phi(x_1) \phi(x_2)=\phi(x_1 x_2)

とかけるので  y_1 y_2 \in {\rm Im} (\phi) となり, 積に関して閉じていることもOK.

最後に逆元に関して閉じていることも,  y \in {\rm Im} (\phi) を任意にとると, ある  x \in G が存在して,  y= \phi(x) とかけ, 

 y^{-1} = \phi(x)^{-1}=\phi(x^{-1})

よりOK. 以上より  {\rm Im} (\phi) H の部分群である. (終)

 

すこし核と像について前回の準同型写像の例を使って具体例を見てみましょう.

 (1) 恒等写像  id_G : G \to G については

 {\rm Ker} ( id_G )=\{ 1_G \}, {\rm Im} ( id_G )=G

となる. 全単射ですね.

 (2) 指数関数  {\rm exp} : \mathbb{R} \to \mathbb{R}^{+} については

 {\rm Ker} ( {\rm exp} )=\{ 0 \}, {\rm Im} ( {\rm exp} )= \mathbb{R}^{+}

となる. こちらも全単射.

 (3) 行列式  {\rm det} : {\rm GL}_n (\mathbb{R}) \to \mathbb{R}^{\times} については

 {\rm Ker (det)} = \{ A \in {\rm GL}_n (\mathbb{R}) \mid {\rm det} (A)=1 \} = {\rm SL}_n (\mathbb{R})

となり, 核は特殊線形群になります. (この特殊線形群なども部分群のときに触れました)

像は

 {\rm Im (det)} = \mathbb{R}^{\times}

となり全射です. なぜなら任意の  r \in \mathbb{R} \setminus \{ 0 \} に対して,  n 次実正方行列  A を, 

 (1,1) -成分が  r, そのほかの対角成分は  1 

という対角行列にすると  {\rm det} (A)=r になるからです. 

 

具体例はここではこれくらいにして引き続き準同型写像に関する性質を見ていきましょう.

ある性質を持つ写像を定義した時, そういった写像の合成もその性質を持つかどうかは数学をする上では気になるところです. (連続写像の合成は連続写像とか)

命題 3.(準同型写像の合成は準同型写像)  \phi : G_1 \to G_2, \psi : G_2 \to G_3 を群の準同型写像とするとき, その合成写像  \psi \circ \phi : G_1 \to G_3準同型写像である.

証明 任意の  x, y \in G_1 に対して,

 (\psi \circ \phi) (xy)=\psi( \phi(xy) )= \psi( \phi(x) \phi(y) )= \psi( \phi(x) ) \psi( \phi(y) )= (\psi \circ \phi) (x) (\psi \circ \phi) (y)

となり  \psi \circ \phi準同型写像. (終)

 

また核と像によって, 準同型写像単射性, 全射性が判定できます. 特に核を使った単射性の判定は普通の一般の写像では言えないことなので大事です.

命題 4.(核と像による単射性と全射性の判定法)  \phi : G \to H を群の準同型とする. このとき次が成り立つ.

 (1)  \phi単射  \Longleftrightarrow {\rm Ker} (\phi)=\{ 1_G \}.

 (2)  \phi全射  \Longleftrightarrow {\rm Im} (\phi)=H.

証明 まず  (2) は定義より本当に明らかです. (なんでわざわざ書いたかというと  (1) の主張との対称性を感じてほしかったからです)

では  (1) を示します.

 \Longrightarrow について:任意に  x \in {\rm Ker} (\phi) をとると

 \phi(x)=1_H=\phi(1_G)

であり, 単射性から  x=1_G となり  {\rm Ker} (\phi)=\{ 1_G \} となる.

 \Longleftarrow について: x, y \in G \phi(x)=\phi(y) とすると,

 \phi(xy^{-1})=\phi(x) \phi(y^{-1})=\phi(x) \phi(y)^{-1}=1_H

であり,  {\rm Ker} (\phi)=\{ 1_G \} なので  xy^{-1}=1_G となり  x=y がわかるので  \phi単射である. (終)

 

今回はこれで終わります.

次回は「 {\rm well-defined}」という考え方ついてまとめたいと思います.

 

何か間違いなどあれば教えてください.

 

[参考文献]