ガランガラのブログ

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初学者向け群論解説 その3 ~部分群について~

ここでは部分群の定義, 判定法などをまとめていきたいと思います.

 

早速定義から見ていきましょう.

 

定義 1.(部分群)

 (G, \ast) を群とする.  H \subset G G の演算によって群になるとき,  H G部分群という.

 

例を見る前に, 群の部分集合が部分群になっているかを判定する方法を紹介します.

 

命題 2.(部分群判定法)

 (G, \ast) の部分集合  H G の部分群になるための必要十分条件は, 次の  (1) \sim (3) が満たされることである.

 (1) \ e_{G} \in H, すなわち  G単位元 H に含まれる.

 (2) \ x, y \in H \Longrightarrow x \ast y \in H, すなわち  H G の演算で閉じている. 

 (3) \ x \in H \Longrightarrow x^{-1} \in H

証明

[ H が部分群ならば  (1) \sim (3) を満たす]

 e_H \in H H単位元としたとき,  e_H \ast e_H = e_H が成り立つ. 左から  e_H^{-1} をかけると  e_H=e_G \in H より  (1) が成り立つ.

 (2) H G の演算  \ast によって群になるという定義から明らかである.

 (3) は,  x \in H とし,  x_H^{-1} \in H H での  x の逆元とすると,  x \ast x_H^{-1}=e_H=e_G であり, よって  x_H^{-1} x G での逆元  x^{-1} であることを意味する. よって  x^{-1}=x_H^{-1} \in H より  (3) が成り立つ. 

 

[ (1) \sim (3) が成り立てば,  H G の部分群である]

まず,  (1) より  H空集合ではない.

さて, 単位元の存在については,  e_G \in H H単位元であることを確認すればいいが,  e_G G単位元なので,  \forall x \in G,  x \ast e_G=e_G \ast x=x であり, 特に  x H の任意の元としてとっても成り立つので,  e_G H単位元である.

結合律が成り立つことについては,  H より大きい  G において結合律が成り立つので, 特に,  H においても結合律が成り立つ. 

逆元の存在については,  x \in H なら  x \in G としての逆元  x^{-1} \in G (3) より  x^{-1} \in H なので  H においても  x の逆元である. (終) 

 

では具体例を見ていきましょう.

 

例 1.  (G, \ast) を群とする. このとき  \{e_G\}, G はそれぞれ  G の部分群になり, 自明な部分群という.

 

例 2.  (\mathbb{Z}, +) は群である.  H=n \mathbb{Z} := \{nx \in \mathbb{Z} \mid x \in \mathbb{Z} \} n の倍数全体とするとこれは  \mathbb{Z} の部分群になる. これを命題  2 の判定法を使って確かめてみましょう.

~~ (1) について~~

これは  0 \in \mathbb{Z} (\mathbb{Z}, +)単位元なので, これが  n \mathbb{Z} に入ることをいえばいいですが,  0=n \cdot 0 \in n \mathbb{Z} より OK.

~~ (2) について~~

 a, b \in n \mathbb{Z} とすると, ある整数  x, y が存在して,  a=nx, b=ny とかける. このとき,  a+b=nx+ny=n(x+y) \in n \mathbb{Z} より OK.

( n の倍数の和は  n の倍数になるということをいっているだけです)

~~ (3) について~~

 a \in n \mathbb{Z} とすると, ある整数  x が存在して  a=nx とかける.

このとき  a の逆元は  -a=-nx=n \cdot (-x) \in n \mathbb{Z} より OK.  (終)

 

例 3. (一般線形群など) これは部分群の例ではなく群の例になりますが重要な群の例であり, ここでも色々な部分群の例を紹介するために必要なので取り上げます.

 {\rm M}_n(\mathbb{R}) n 次の実正方行列全体の集合とします. また

 {\rm GL}_n(\mathbb{R}) n 次実正則行列全体とすると,  ({\rm GL}_n(\mathbb{R}), \cdot ) は通常の行列のについて群になります.

なぜなら, 単位行列は自分自身が逆行列なので  {\rm GL}_n(\mathbb{R}) に入ります.

また, 逆元の存在については, 行列が正則なので逆行列(行列で逆元にあたるのは逆行列) も存在します.

結合律が成り立つのは明らかです.

また行列式の性質をつかうと

 {\rm GL}_n(\mathbb{R}) = \{ A \in {\rm M}_n(\mathbb{R}) \mid {\rm det}A \not= 0 \}

が成り立つこともわかります. 大事なので押さえておくといいと思います. この群を 一般線形群 といいます.

 

さて  {\rm GL}_n(\mathbb{R}) の部分集合

 {\rm SL}_n(\mathbb{R}) := \{ A \in {\rm GL}_n(\mathbb{R}) \mid {\rm det}A=1 \}

 {\rm GL}_n(\mathbb{R}) の部分群になります. 示してみましょう.

ここでひとつ確認ですが, 行列  A {\rm SL}_n(\mathbb{R}) に入るということは  {\rm det}A=1 を満たすということが定義なので, なにか行列  A {\rm SL}_n(\mathbb{R}) に入ることを示したければ  {\rm det}A=1 を満たすことをいえばいいです. では示してみましょう.

~~ (1) について~~

 {\rm det}I_n=1 より  I_n \in {\rm SL}_n(\mathbb{R})

~~ (2) について~~

行列式についての性質

 A, B \in {\rm M}_n(\mathbb{R}) に対して  {\rm det}AB={\rm det}A \cdot {\rm det}B

を使うと,  A, B \in {\rm SL}_n(\mathbb{R}) なら  {\rm det}A=1, {\rm det}B=1 であり

 {\rm det}AB={\rm det}A \cdot {\rm det}B=1 \cdot 1=1

よって  AB \in {\rm SL}_n(\mathbb{R})

~~ (3) について~~

行列式についての性質

 A \in {\rm GL}_n(\mathbb{R}) に対して,  {\rm det}(A^{-1})=1/{\rm det}A

を使うと,  A \in {\rm SL}_n(\mathbb{R}) なら  {\rm det}A=1 であり,  {\rm det}(A^{-1})=1/{\rm det}A=1/1=1 より  A^{-1} \in {\rm SL}_n(\mathbb{R})

 

以上で  {\rm SL}_n(\mathbb{R}) {\rm GL}_n(\mathbb{R}) の部分群になりますが, この  {\rm SL}_n(\mathbb{R})特殊線形群 といいます.

 

また, 次の部分集合

 {\rm O}(n) := \{ A \in {\rm GL}_n(\mathbb{R}) \mid {^{t}\!A} A=I_n \}

 {\rm GL}_n(\mathbb{R}) の部分群になります. ただし,  {^{t}\!A} A の転置です.

これも示してみましょう.  {\rm O}(n) に入るということの定義を意識しながら証明を見てみてください.

~~ (1) について~~

 {^{t}\!I_n} I_n=I_n I_n=I_n より  I_n \in {\rm O}(n)

~~ (2) について~~

 A, B \in {\rm O}(n) なら  ^{t}\!A A=I_n, ^{t}\!B B =I_n であり, 転置の性質

 A, B \in {\rm M}_n(\mathbb{R}) に対して,  {^{t}\!(AB)}={^{t}\!B} {^{t}\!A}

を使うと

 {^{t}\!( AB )} ( AB ) = {^{t}\!B} ({^{t}\!A}A) B ={^{t}\!B} I_n B = {^{t}\!B} B=I_n

より,  AB \in {\rm O}(n)

~~ (3) について~~

 A \in {\rm O}(n) なら  ^{t}\!AA = I_n であり, 

  ^{t}\!(A^{-1}) A^{-1} = (^{t}\!A)^{-1} A^{-1} =  (A ^{t}\!A)^{-1} = I_n^{-1} = I_n

よって,  A^{-1} \in {\rm O}(n)

 

以上で  {\rm O}(n) は部分群になり, この群を 直交群 といいます.

 

ほかにもいろいろ部分群の例はありますが今回はこれくらいにしておきます.

 

次は生成元という概念や巡回群という特別な性質をもつ群についてまとめたいと思います.

 

何か間違いなどあれば教えてください

 

[参考文献]