ガランガラのブログ

数学や好きな音楽について書くことが多いです。

初学者向け群論解説 その11 ~商と剰余類の例~

前回は同値関係と同値類についてまとめました.

mathgara.hatenablog.com

 

今回は引き続き同値関係により定まる商や剰余類についてみていきたいと思います.

 

定義 1.  \sim S 上の同値関係とする.

 (1)  S /{\sim} := \{ C(x) \mid x \in S \} S の同値関係  \sim によるという.

 (2) 写像  \pi : S \to S/{\sim} ; \pi(x)=C(x)自然な写像という.

 (3)  C \in S/{\sim} に対して,  x \in C となる  S の元を  C代表元という.

 (4)  S の部分集合  R S/{\sim} の各元の代表元をちょうど一つずつ含むとき,  R を同値関係  \sim完全代表系という.

 

はい. よくわからないことがたくさん出てきたと思うので, 丁寧に説明します.

混乱の対策として,  S の同値類  C(x) S の中では部分集合だが,  S/{\sim} の中では元になるということを心にとめといてください.

 

(恒等関係)  S=\{1, 2, 3\} として, 同値関係を恒等関係  = とします.このときの商はどうなるでしょう. 定義から

 S/{=} := \{ C(x) \mid x \in S \} = \{ C(1), C(2), C(3) \} = \{ \{1\}, \{2\}, \{3\} \}

となります. 最後の等号は例えば  C(1)=\{x \in S \mid x=1\}=\{1\} という具合にわかります.   S/{=} S の一点集合を元にもつ集合になっていて, すこし  S とは異なることがわかるかと思います.

ではこのときの自然な写像  \pi : S \to S/{=} はどういうものかというと

 \pi(1)=\{ 1 \}, \pi(2)=\{ 2 \}, \pi(3)=\{ 3 \}

というものになります.  これは全単射になっていますが, 一般には自然な写像全射になります.

また, 明らかに  \{ 1 \} \in S/{=} の代表元は  1 \in \{ 1 \} \subset S ですし, 同じようにしていくと, 完全代表系は  S 自身になります.

 \displaystyle S = \coprod_{x \in S} C(x) =\{1\} \coprod \{2\} \coprod \{3\}

となっています.  \coprod は集合の直和, すなわち共通部分のない部分集合の和です.

 

( {\rm mod}\ n) 前回登場した整数の合同関係を考えます. ここでは  n=3 として考えてみましょう. つまり,  \mathbb{Z} において

 x \sim y \Longleftrightarrow x-y \in 3\mathbb{Z}

という同値関係を考えます. このときの商を  \mathbb{Z}/{3\mathbb{Z}} とかきます. 読み方は「ゼット・オーバー・3ゼット」です. これは定義から

 \mathbb{Z}/{3\mathbb{Z}} = \{ C(x) \mid x \in \mathbb{Z} \}

なのですが, ここで  C(x) を考えると

 C(0)=\{ y \in \mathbb{Z} \mid 0-y \in 3\mathbb{Z} \} = \{ \cdots, -6, -3, 0, 3, 6, \cdots \}

 C(1)=\{ y \in \mathbb{Z} \mid 1-y \in 3 \mathbb{Z} \} = \{ \cdots, -5, -2, 1, 4, 7, \cdots \}

 C(2)=\{ y \in \mathbb{Z} \mid 2-y \in 3 \mathbb{Z} \} = \{ \cdots, -4, -1, 2, 5, 8, \cdots \}

 C(3)=\{ y \in \mathbb{Z} \mid 3-y \in 3\mathbb{Z} \} = \{ \cdots, -6, -3, 0, 3, 6, \cdots \} =C(0)

 C(4)=\{ y \in \mathbb{Z} \mid 4-y \in 3 \mathbb{Z} \} = \{ \cdots, -5, -2, 1, 4, 7, \cdots \} =C(1)

 C(5)=\{ y \in \mathbb{Z} \mid 5-y \in 3 \mathbb{Z} \} = \{ \cdots, -4, -1, 2, 5, 8, \cdots \} =C(2)

という感じになるので

 \mathbb{Z}/{3\mathbb{Z}} = \{ \{ \cdots, -6, -3, 0, 3, 6, \cdots \},\ \{ \cdots, -5, -2, 1, 4, 7, \cdots \},\ \{ \cdots, -4, -1, 2, 5, 8, \cdots \} \}

になることがわかります. 自然な写像

 \pi(0)=C(0)=\{ \cdots, -6, -3, 0, 3, 6, \cdots \}

 \pi(1)=C(1)=\{ \cdots, -5, -2, 1, 4, 7, \cdots \}

 \pi(2)=C(2)=\{ \cdots, -4, -1, 2, 5, 8, \cdots \}

 \pi(3)=C(3)=\{ \cdots, -6, -3, 0, 3, 6, \cdots \}

 \pi(4)=C(4)=\{ \cdots, -5, -2, 1, 4, 7, \cdots \}

 \pi(5)=C(5)=\{ \cdots, -4, -1, 2, 5, 8, \cdots \}

のような感じになります. 最初の例でも言った通りこれは全射になっています.

また代表元を考えると

 \{ \cdots, -6, -3, 0, 3, 6, \cdots \} の代表元は  3\mathbb{Z} の元ならなんでもOK.

 \{ \cdots, -5, -2, 1, 4, 7, \cdots \} の代表元は  3\mathbb{Z}+1 の元ならなんでもOK.

 \{ \cdots, -4, -1, 2, 5, 8, \cdots \} の代表元は  3\mathbb{Z}+2 の元ならなんでもOK.

になります. 完全代表系としては  \{ 0, 1, 2 \} \{ 3, 4, 5 \} などいろいろ取ることができます. つまり

 \mathbb{Z}/{3\mathbb{Z}} = \{ C(0), C(1), C(2) \} = \{ C(3), C(4), C(5) \}

となります. よって完全代表系として  R=\{ 0, 1, 2 \} としたとき

 \displaystyle \mathbb{Z} = \coprod_{x \in R} C(x) = C(0) \coprod C(1) \coprod C(2)

となっています.

 

なんとなく感覚はつかめたでしょうか?

 

ここまでは群でなくても一般の集合での話なのですが, ここからはより群論的な話に入っていきます. 部分群による同値関係も前回やったので見てみてください.

定義 2.  H を群  G の部分群,  x, y \in G とする.

 (1)  x \sim y \Longleftrightarrow x^{-1}y \in H とするとこれは同値関係である. このとき,  x \in G の同値類は

 C(x) = \{ y \in G \mid x^{-1}y \in H \} = \{ y \in G \mid y \in xH \}

なので  C(x) を簡単に  xH とかき,  x H による左剰余類という. 

また, この同値関係による商  G/{\sim} G/{H} とかく.

 (2)  x \sim y \Longleftrightarrow yx^{-1} \in H とするとこれは同値関係である. このとき,  x \in G の同値類は

 C(x) = \{ y \in G \mid yx^{-1} \in H \} = \{ y \in G \mid y \in Hx \}

なので  C(x) を簡単に  Hx とかき,  x H による右剰余類という.

また, この同値関係による商  G/{\sim} H\backslash G とかく.

 

少し例を見てみましょう.

 

 G=\mathbb{Z},\ H=3\mathbb{Z} なら, まず演算は加法で  \mathbb{Z} はアーベル群なので  x, y \in \mathbb{Z} について

 -x+y \in 3\mathbb{Z} \Longleftrightarrow y-x \in 3\mathbb{Z}

となり, 左剰余類と右剰余類が等しくなります.

 C(0) = 0+3\mathbb{Z} = \{ \cdots, -6, -3, 0, 3, 6, \cdots \}

 C(1) = 1+3\mathbb{Z} = \{ \cdots, -5, -2, 1, 4, 7, \cdots \}

 C(2) = 2+3\mathbb{Z} = \{ \cdots, -4, -1, 2, 5, 8, \cdots \}

となることは上で見た通りです.

 

 G=\mathfrak{S}_{3},\ H=\{ 1, (1\ 2) \} のとき :各左剰余類は

 1H=H

 \ (1\ 2)H=\{ (1\ 2) \cdot 1,\ (1\ 2) \cdot (1\ 2) \} = \{ (1\ 2),\ 1 \}=H

 (1\ 3)H=\{ (1\ 3) \cdot 1,\ (1\ 3) \cdot (1\ 2) \} = \{ (1\ 3),\ (1\ 2\ 3) \}

 (2\ 3)H=\{ (2\ 3) \cdot 1,\ (2\ 3) \cdot (1\ 2) \} = \{ (2\ 3),\ (1\ 3\ 2) \}

 (1\ 2\ 3)H=\{ (1\ 2\ 3) \cdot 1,\ (1\ 2\ 3) \cdot (1\ 2) \} = \{ (1\ 2\ 3),\ (1\ 3) \} = (1\ 3)H

 (1\ 3\ 2)H=\{ (1\ 3\ 2) \cdot 1,\ (1\ 3\ 2) \cdot (1\ 2) \} = \{ (1\ 3\ 2),\ (2\ 3) \} = (2\ 3)H

よって  G/H=\{ H,\ (1\ 3)H,\ (2\ 3)H \} という  3 元集合になります. ここで 6 \div 2=3 になっているのは偶然ではありません.

右剰余類はというと

 1H=H

 H\ (1\ 2)=\{ 1 \cdot (1\ 2),\ (1\ 2) \cdot (1\ 2) \} = \{ (1\ 2),\ 1 \}=H

 H(1\ 3)=\{ 1 \cdot (1\ 3),\ (1\ 2) \cdot (1\ 3) \} = \{ (1\ 3),\ (1\ 3\ 2) \}

 H(2\ 3)=\{ 1 \cdot (2\ 3),\ (1\ 2) \cdot (2\ 3) \} = \{ (2\ 3),\ (1\ 2\ 3) \}

 H(1\ 2\ 3)=\{ 1 \cdot (1\ 2\ 3),\ (1\ 2) \cdot (1\ 2\ 3) \} = \{ (1\ 2\ 3),\ (2\ 3) \} = H(2\ 3)

 H(1\ 3\ 2)=\{ 1 \cdot (1\ 3\ 2),\ (1\ 2) \cdot (1\ 3\ 2) \} = \{ (1\ 3\ 2),\ (1\ 3) \} = H(1\ 3)

となり,  H \backslash G=\{ H,\ H(1\ 3),\ H(2\ 3) \} という, これまた  3 点集合になります.  (1\ 3)H \not= H(1\ 3) などになっていることがよく見るとわかると思います.

ほかにも,  H=\{ 1, (1\ 2\ 3), (1\ 3\ 2) \} でもやってみてください. 実はこの場合だと任意の  g \in G に対して  gH=Hg となることがわかります. こういう性質は実は後々重要になってきます.

 

今回はこれくらいで, 次回は剰余類などの性質をまとめたいと思います.

 

何か間違いなどあれば教えてください.

 

[参考文献]