ガランガラのブログ

数学や好きな音楽について書くことが多いです。

直感に反する"全射"

ここでは圏論における "全射" を定義して, 直感に反するような全射の例を紹介します.

まずは定義から.

定義 1.   \mathscr{C} の射  e : X \to Y全射的(epimorphic, epic) であるとは, 任意の対象  Y' への  Y からの任意の二つの射  f_1, f_2 : Y \to Y' に対し,

 f_1 \circ e = f_2 \circ e ならば  f_1=f_2

が成り立つことをいう.  このとき  e を 全射 という.

 

集合の圏  {\bf Set} の射に関しては, 普通の全射の定義と一致します.

 

では少し直感に反する例を紹介します.

 

命題 2. 環の包含準同型  \iota : \mathbb{Z} \to \mathbb{Q}可換環の圏  {\bf CRing} における全射である.

証明 任意の対象  A への  \mathbb{Q} からの任意の二つの環準同型  f_1, f_2 : \mathbb{Q} \to A をとる.  f_1 \circ \iota = f_2 \circ \iota より, 任意の有理数  \dfrac{n}{m} に対し, 

 f_1 \left( \dfrac{n}{m} \right)=\dfrac{f_1(n)}{f_1(m)}=\dfrac{f_2(n)}{f_2(m)}=f_2\left( \dfrac{n}{m} \right)

より,  f_1=f_2 なので  \iota全射. (終)

 

Remark: これは可換環とその局所化に対して同様の設定で成り立つ.

 

何か間違いなどあれば教えてください

 

[参考文献]