Hilbert の分岐理論 その2 ~二次体とLegendre 記号~
「その1」の具体例で二次体での素数の分解を紹介しました.
今回はこの話をより詳しく見ていこうと思います.
を平方因子を持たない整数, を二次体とします. 特に,
- > のとき 実二次体
- < のとき 虚二次体
といいます.
また の整数環は
- mod のとき
- mod のとき
となります.
例
なら mod より
なら mod より
さて を素数として二次体での分解を見ていきましょう.
まず, 「その1」で紹介した基本等式より考えられるパターンは今回は二次体なので であることから次の 通りになります.
- 分岐指数 のみが で [f=r=1] となる, すなわち 完全分岐
- のみが でほかは となる, すなわち 完全分解される
- 相対次数 のみが で となる, すなわち 不分解
分岐するものは判別式を割るものであることが知られていて, 二次体の判別式 は
- mod のとき
- mod のとき
であるので次がわかります.
命題 1. を平方因子を持たない整数, を二次体とする. このとき 素数 に対して
- mod のとき が完全分岐
- mod のとき が完全分岐
よって分岐しないのは のときになります. このとき完全分解する条件を考えます.
ここで, は
- mod のとき
- mod のとき
となります. これを見ると, 結局
mod
が解をもつかどうかが素数 の分解に関わってきます. なぜならこの合同方程式の解が存在したとして, その解のひとつを と書くことにすると
- mod のとき
- mod のとき
と因数分解され, この因子は異なるので, は で完全分解します. この問題を扱いやすくするために Legendre 記号 というものを導入します.
定義 2.(Legendre 記号) を奇素数とする. と互いに素な整数 に対して合同方程式
mod
が解をもつとき , 解をもたないとき と定める. (分数じゃないです)
この記号は乗法的, すなわち
となります. この記号を用いると上で述べていたことは次のようになります.
命題 3. 平方因子を持たない整数 と を満たす素数 に対して,
が で完全分解する
が成立する.
こうなると Legendre 記号を計算したくなりますが, 次のような公式が知られています.
定理 4.(平方剰余の相互法則) つの異なる奇素数 に対して
が成り立つ.
定理 5.(補充法則) を奇素数とすると
が成り立つ.
少し具体的に計算してみましょう.
例 となり, 補充法則より
であり, また平方剰余の相互法則を使うと
となるので, となります.
もちろん mod より, いきなり を計算しに行ってもいいです.
さいごに実際に二次体での素数の分解を具体例でみていきましょう.
例 について:
mod より 命題 より完全分岐するのは の2つのみ.
また完全分解するのは命題 より
が完全分解する
であり,
mod
かつ
mod
なので,
が完全分解する mod
となります. まとめると
- のとき完全分岐
- mod のとき完全分解する
- それ以外の場合は不分解
となります.
次はHilbert の分岐理論をまとめたいと思います. たぶん.
何か間違いなどあれば教えてください.
[参考文献]