ガランガラのブログ

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初学者向け群論解説 その1 ~群の定義と例~

ここでは群の定義と例をまとめたいと思います.

定義 1. (二項演算)  X を集合とする. このとき, 集合  X 上で定義される二項演算とは, 写像

 \ast : X \times X \to X ; (x, y) \mapsto x \ast y

のことである.

 

この定義だけ見てもイメージがわかないかもしれないですが, 簡単に言うと,  2 つの元を使って  1 つの元を定める規則のことを二項演算といいます. 簡単に例を挙げます.

例 1.1  X=\mathbb{Z} としたとき, 加法

 + : \mathbb{Z} \times \mathbb{Z} \to \mathbb{Z} ; (x, y) \mapsto x+y

は二項演算になっています. ( 2 つの整数から  1 つの整数が定まっています)

 

例 1.2  X=\mathbb{Z} としたとき, 乗法

 \times : \mathbb{Z} \times \mathbb{Z} \to \mathbb{Z} ; (x, y) \mapsto x \times y

は二項演算になっています. ( 2 つの整数から  1 つの整数が定まっています)

 

例 1.3  X=\mathbb{Z} としたとき, 除法は  \mathbb{Z} 上の二項演算ではありません. 例えば  2 \div 3 は整数ではありません.

 

例 1.4  X=\mathbb{R} としたとき, 2つの実数の平均をとる操作

 \ast : \mathbb{R} \times \mathbb{R} \to \mathbb{R} ; (x, y) \mapsto x \ast y =(x+y)/2

 \mathbb{R} 上の二項演算になります.

 

ほかにも二項演算というのはいろいろなものがあります. とりあえず大事なことは, (定義 1) を満たすものなら何でも二項演算ということです .

 

では群の定義を紹介します. 

 

定義 2. (群) 集合  G G 上の二項演算  \ast の組  (G, \ast)群である とは, 次の 1 \sim 3 の条件を満たすことをいう.

  1. (単位元の存在)  \exists e \in G\ s.t. \forall g \in G, g \ast e=e \ast g=g この  e G単位元という.
  2. (逆元の存在)  \forall a \in G, \exists b \in G,\ s.t. a \ast b=b\ast a=e この  b a逆元といい,  a^{-1} とかく. (こうかくという慣習なだけで決して「マイナス1乗」の意味ではない)
  3. (結合律)  \forall x, y, z \in G, (x \ast y) \ast z=x \ast (y \ast z)

さらに 群  (G, \ast) が 

 \forall x, y \in G, x\ast y=y \ast x

を満たすとき 可換群 , もしくは アーベル群 という.

また 群  G の元の個数  |G| G の 位数 といい, 位数有限な群を 有限群, そうでない群を 無限群 という.

 

Remark. 単に 「 G は群である」などのような書き方をすることが多いですが, はじめのうちは演算も省略せずに書きたいと思います. また群の位数はこれから先大事な量になります.

 

これもまずはいろいろ身近な例を見ながら何を言っているか確認してみましょう.

 

例 2.1  (\mathbb{Z}, +) は群, もっと言うと可換群になります. 結合測はいいとして, 単位元や逆元はどうなるのでしょうか.

まず単位元については, 今回は

 \forall n \in \mathbb{Z}, e+n=n+e=n

という性質を持つ整数ということになります. このとき  0 \in \mathbb{Z} はこの性質を満たす唯一の整数ですので, 今回の単位元 0 ということになります.

 次逆元ですが, 今回  a \in \mathbb{Z} の逆元は

 a+b=b+a=0

という性質を満たす整数ということになります. これは  -a が当てはまります. よって  a^{-1}=-a (これは「 a の逆元は  -a」という意味) になります.

 

例 2.2  (\mathbb{Q}, +), (\mathbb{R}, +), (\mathbb{C}, +) も同様に可換群になります.

 

例 2.3  (\mathbb{Z}, \times) は群にはなりません! ではどの条件は満たされていて, どの条件が満たされていないのか考えてみましょう.

まず結合測はOKですね. 

では単位元の存在はどうでしょう. これも大丈夫です. 今回だと

 \forall n \in \mathbb{Z}, e \times n=n \times e=n

という性質を満たす整数ということになります. これは  1 が当てはまります.

実はここでは逆元の条件が満たされないということになります.  a \in \mathbb{Z} の逆元は今回は

 a \times b = b \times a =1

を満たす整数ということになりますが, 例えば  a=2 のときの逆元は  1/2 となるのでこれは整数ではないので, 逆元に関する条件が満たされないことがわかります.

 

例 2.4  G=\{1, -1 \} として  (G, \times) は可換群になります. 単位元 1 です.

逆元は

 1 \times 1=1, (-1) \times (-1)=1

より,  1, -1 それぞれの逆元は自分自身になります. 

 

例 2.5  G=\{ (1), (1\ 2), (1\ 3), (2\ 3), (1\ 2\ 3), (1\ 3\ 2) \}, \ast を置換の積として  (G,  \ast) は群になります.

逆元はというと

  •  (1)^{-1}=(1)
  •  (1\ 2)^{-1}=(1\ 2), (1\ 3)^{-1}=(1\ 3), (2\ 3)^{-1}=(2\ 3)
  •  (1\ 2\ 3)^{-1}=(1\ 3\ 2), (1\ 3\ 2)^{-1}=(1\ 2\ 3)

となります. またこれは可換群ではありません! 

 (1\ 2)(1\ 2\ 3)=(2\ 3), (1\ 2\ 3)(1\ 2)=(1\ 3)

などをみればわかります. これは  3 次対称群というものになっていて,  S_3 とか  \mathfrak{S}_{3} とかきます. (後者はドイツ文字のSです)

 

例 2.6  G=\{0, 1, 2 \} として  \ast : G \times G \to G x, y \in G に対して

 x \ast y := x+y 3 で割ったあまり

と定めると,  (G, \ast) は可換群になります.  それぞれの逆元がどうなるか考えてみてください.

 

他にもいろいろ例はあると思います.

 

つぎは群に関して成り立つ事柄などをまとめたいと思います.

 

何か間違いなどあれば教えてください.

 

[参考文献]