ガランガラのブログ

数学や好きな音楽について書くことが多いです。

初学者向け群論解説 その12 ~群や剰余類の位数について~

前回は商と剰余類の例についてまとめてみました.

mathgara.hatenablog.com

今回はラグランジュの定理など, 位数についての話題をまとめてみたいと思います.

とはいっても, 群の位数の話題はたくさんあって僕も知らないことがまだまだあると思いますが, ここではまだ基本的なことについてまとめます.

 

早速命題です. とりあえず主張と証明を述べますが, そのあとで前回の内容に出てきた具体例などを使って説明します. 「あ~こういう雰囲気ね」と感じてみてください.

 

また今回の証明で  \textrm{well-defined} の確認をす場面があるので, 以前まとめた記事を載せておきます.

mathgara.hatenablog.com

 

命題 1.  H G の部分群なら, 次のことが成り立つ.

 (1)  \vert G/H \vert = \vert H \backslash G \vert である. (両方  \infty の場合は濃度で考える.)

 (2) 任意の  g \in G に対して  \vert H \vert = \vert gH \vert = \vert Hg \vert.

証明

 (1) について: G/H から  H \backslash G への全単射写像を構成する(これが濃度が等しいことの定義)か, もしくは(同値なことで) 双方向の写像で互いに逆写像になっているようなものを構成すればいい. 

今回は後者で示す. 次を考える. 

 \alpha : G/H \to H \backslash G ; gH \mapsto Hg^{-1}.

この対応が "写像となっていること", すなわち  " \textrm{well-defined} であること" を示す必要がある. なぜなら  G/H の元の表し方が一般には一意的でないからである. (前回の例でも代表元の取り方は何通りもあった) 写像としてうまく定義されていることを示すには, "同じものが同じものに移る" , 正確に言うと, 

 gH=g'H ならば  Hg^{-1}=Hg'^{-1}

を示せばいい.  gH=g'H より  g=g \cdot e \in g'H := \{ g'h \mid h \in H \} なので

 \exists h \in H, {\rm s.t.}\ g=g'h.

すると

 Hg^{-1} = H(g'h)^{-1} = H \cdot h^{-1}g'^{-1} = Hg'^{-1}

となり,  Hg^{-1} = Hg'^{-1} がわかる. よって上の対応  \alpha \textrm{well-defined} である.

また, ( \alpha の逆っぽいものとして) 次を考える.

 \beta : H \backslash G \to G/H ; Hg \mapsto g^{-1}H.

これが  \textrm{well-defined} であることは  \alpha のときと同様に示せる. また

 \forall gH \in G/H,\ \beta \circ \alpha(gH) = \beta(Hg^{-1}) = gH

 \forall Hg \in H \backslash G,\ \alpha \circ \beta(Hg) = \alpha(g^{-1}H) = Hg

より,  \beta \circ \alpha= \textrm{id}_{G_H},\ \alpha \circ \beta = \textrm{id}_{H \backslash G} となるので,  \alpha, \beta は互いに逆写像.

よって  \vert G/H \vert = \vert H \backslash G \vert.

 

 (2) について: H から  gH への全単射写像を考える. 次の 左 g-平行移動写像が条件を満たす.

 L_g : H \to gH ; x \mapsto gx.

(念のための注意であるが, これが  \textrm{well-defined} かどうかは先ほどのようには気にしなくてもいい)

実際次の写像がこれの逆写像になることがわかる.

 L_{g^{-1}} : gH \to H ; y \mapsto g^{-1}y.

 \vert Hg \vert = \vert H \vert なども同様に, 右  g- 平行移動写像

 R_{g} : H \to Hg ; x \mapsto xg

を考えれば, これの逆写像 R_{g^{-1}} になるのでOK. (終)

 

では具体例を見てみましょう. ここでは前回の最後に紹介したものを使ってみます.

 G=\mathfrak{S}_{3},\ H=\{ 1, (1\ 2) \} のとき, 各左剰余類は

 1H=H

 \ (1\ 2)H=\{ (1\ 2) \cdot 1,\ (1\ 2) \cdot (1\ 2) \} = \{ (1\ 2),\ 1 \}=H

 (1\ 3)H=\{ (1\ 3) \cdot 1,\ (1\ 3) \cdot (1\ 2) \} = \{ (1\ 3),\ (1\ 2\ 3) \}

 (2\ 3)H=\{ (2\ 3) \cdot 1,\ (2\ 3) \cdot (1\ 2) \} = \{ (2\ 3),\ (1\ 3\ 2) \}

 (1\ 2\ 3)H=\{ (1\ 2\ 3) \cdot 1,\ (1\ 2\ 3) \cdot (1\ 2) \} = \{ (1\ 2\ 3),\ (1\ 3) \} = (1\ 3)H

 (1\ 3\ 2)H=\{ (1\ 3\ 2) \cdot 1,\ (1\ 3\ 2) \cdot (1\ 2) \} = \{ (1\ 3\ 2),\ (2\ 3) \} = (2\ 3)H

となったのでした.  また, 右剰余類はというと

 1H=H

 H\ (1\ 2)=\{ 1 \cdot (1\ 2),\ (1\ 2) \cdot (1\ 2) \} = \{ (1\ 2),\ 1 \}=H

 H(1\ 3)=\{ 1 \cdot (1\ 3),\ (1\ 2) \cdot (1\ 3) \} = \{ (1\ 3),\ (1\ 3\ 2) \}

 H(2\ 3)=\{ 1 \cdot (2\ 3),\ (1\ 2) \cdot (2\ 3) \} = \{ (2\ 3),\ (1\ 2\ 3) \}

 H(1\ 2\ 3)=\{ 1 \cdot (1\ 2\ 3),\ (1\ 2) \cdot (1\ 2\ 3) \} = \{ (1\ 2\ 3),\ (2\ 3) \} = H(2\ 3)

 H(1\ 3\ 2)=\{ 1 \cdot (1\ 3\ 2),\ (1\ 2) \cdot (1\ 3\ 2) \} = \{ (1\ 3\ 2),\ (1\ 3) \} = H(1\ 3)

となりました. 

命題  1 (1) \vert G/H \vert =3, \vert H \backslash G \vert = 3 と確かに成り立っていることがわかります.

また,  (2) も例えば  \vert H \vert = \vert (1\ 2)H \vert = \vert H(1\ 2) \vert となっていることがわかります.

ここからわかることは,  G \vert H \vert 元集合にちょうど  \vert G/H \vert (= \vert H \backslash G \vert) 等分割されているということです. このことがラグランジュの定理というものです.

 

定理 2.(ラグランジュの定理)  \vert G \vert = (G:H) \vert H \vert となる. ただし  (G:H) とは  \vert G/H \vert の元の個数であり,  H G における指数という.

証明 証明といっても先ほどの説明をするだけです.  G/H の完全代表系  \{ x_i \} を一つとると,  \displaystyle G = \coprod_{i} x_{i}H となる. 命題より  \vert x_{i}H \vert = \vert H \vert なので  \vert G \vert = (G:H) \vert H \vert となる. (終)

 

上の定理を少し書き換えると

 \vert G/H \vert = \vert G \vert/{\vert H \vert}

 G/H と書いているのが分数っぽい雰囲気がすると思います. なので「商」といったりします.

 

ここから, 有限群とその部分群の位数の関係がわかる.

 

系 3. 有限群  G に対して次が成り立つ.

 (1)  H G の部分群なら,  \vert H \vert \vert G \vert の約数である.

 (2) 任意の  g \in G に対して, その位数は  \vert G \vert の約数である.

証明

 (1) (G:H) が整数なのでラグランジュの定理からわかる. 

 (2) g の位数が  g によって生成される巡回部分群  \langle g \rangle の位数に等しいので, あとは  (1) からわかる. (終)

 

この系を使うと, 次のように群の位数の情報から群の構造を決定できる場合もあることがわかる.

 

系 4.   G の位数が素数  p なら巡回群である.

証明  G \ni g \not=e をとり, これで生成される巡回部分群  \langle g \rangle を考えると, この部分群の位数は  \vert G \vert =p 1 でない約数, すなわち  p であり,  G= \langle g \rangle がわかる. (終) 

 

また, 高校数学でも知っている人も多い  \textrm{Fermat} の小定理も示せる.

 

定理 5.( \textrm{Fermat} の小定理)   p素数とし,  x \in \mathbb{Z} p の倍数でないなら,  x^{p-1} \equiv 1\ \textrm{mod}\ p.

証明  (\mathbb{Z}/{p \mathbb{Z}})^{\times} は位数  p-1 の有限群である.  x p の倍数でないなら  \bar{x} \in (\mathbb{Z}/{p \mathbb{Z}})^{\times} であり, よって系 3 より  \bar{x}^{p-1}=\bar{1} となる. これは剰余類の定義から  x^{p-1} \equiv 1\ \textrm{mod}\ p ということである. (終)

 

位数の性質についてたくさん見てみましたがなかなか面白いですね.

 

次回は正規部分群についてまとめたいと思います. めっちゃ大事です!!

 

何か間違いなどあれば教えてください.

 

[参考文献]