ガランガラのブログ

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初学者向け群論解説 その4 ~部分集合が生成する部分群~

前回は部分群についてまとめてみました.

mathgara.hatenablog.com

 

今回は群の部分集合が生成する部分群について簡単にまとめたいと思います.

最初はややこしく感じるかもしれませんが "生成する" という概念数学ではよく出てくる操作ですので, そのイメージをつかんでほしいです.

 

いきなりですが, 加法群  \mathbb{Z} の部分集合  \{ 2 \} は部分群になるでしょうか? 答えは NO です. そもそも単位元  0 が入っていなかったり, 逆元  -2 もはいっていなかったりして, 全然部分群とよべる代物ではありません. ここで何を考えるかというと, この全然部分群とはいえない部分集合  \{ 2 \} に元を追加していくことで部分群にしようということです. もちろんいきなり全部の元を追加して  \mathbb{Z} にしても部分群になりますが, これはあまり元の集合を反映していないので, ある意味一番  \{ 2 \} に近い部分群というものを考えます.

 

まずはやはり単位元  0 2 の逆元  -2 は絶対追加しないといけないでしょう. この段階で

 \{ -2, 0, 2 \}

になりました. これで部分群になったでしょうか? まだダメですね. なにがいけないかというと, 演算で閉じていない, すなわち, 例えば   2+2 の答え  4 が入っていません. なので, 逆元  -4 と一緒に追加しましょう. この段階で

 \{ -4, -2, 0, 2, 4 \}

になりました. でもこれでもまだ  2+4 の答えなどが入っていないし, その逆元も入っていません. 追加して

 \{ -6, -4, -2, 0, 2, 4, 6 \}

にして, また追加して

 \{ -8, -6, -4, -2, 0, 2, 4, 6, 8 \}

にして, また追加して...

とやっていくと結局全部の偶数を追加したもの, すなわち  2 \mathbb{Z} が求めたい部分群になるだろうというのがわかると思います. 

 

この流れの中で何をやったかを簡単にまとめると

  1. 単位元を入れる
  2. 演算で閉じるように演算結果を追加する
  3. これらの逆元を追加する

ということになります.

 

この流れを一般の群の部分集合に関してもやっていこうというのが今回の内容です.

まずは 語 というものを定義します. 見た目に面食らってしまうかもしれませんがまずは何を作ろうとしているかを考えながらみてください.

定義 1.(語)  G の部分集合  S の有限個の元  x_1, x_2, \cdots, x_n \in S により

 x_1^{\pm 1}x_2^{\pm 1}\cdots x_n^{\pm 1}

という形をした  G の元を Sの元による語 (word) という. ただし  n=0 なら語は単位元  1_G を表すとし, また  \pm 1 1 -1 のどちらでもいいとする.

また  \langle S \rangle S の元による語全体を表す.

 

つまり語というのは, 単位元はもちろん, 部分集合  S を使って表現されるありとあらゆる演算結果とその逆元を表現したものであり,  \langle S \rangle はそういうものを全部集めてきた集合ということになります. 実はこの  \langle S \rangle S が生成する部分群というにふさわしい性質をもっています. それが次の命題です.

 

命題 2.

 (1) \  \langle S \rangle G の部分群である.

 (2) \  \langle S \rangle S を含む  G の最小の部分群である. すなわち, もし  H S を含む  G の部分群とすると, 必ず   \langle S \rangle \subset H が成り立つ.

証明 

 (1) について:

まず単位元 n=0 のときの取り決めから   \langle S \rangle に入るのでOK.

つぎに, 演算で閉じているかについては,   \langle S \rangle の元(つまり語)  x_1^{\pm 1}x_2^{\pm 1}\cdots x_n^{\pm 1}, y_1^{\pm 1}y_2^{\pm 1}\cdots y_m^{\pm 1} について

 (x_1^{\pm 1}x_2^{\pm 1}\cdots x_n^{\pm 1}) (y_1^{\pm 1}y_2^{\pm 1}\cdots y_m^{\pm 1})=x_1^{\pm 1}x_2^{\pm 1}\cdots x_n^{\pm 1}y_1^{\pm 1}y_2^{\pm 1}\cdots y_m^{\pm 1}

で右辺もちゃんと語になっているので  \langle S \rangle に入る. OK.

最後に逆元については  x_1^{\pm 1}x_2^{\pm 1}\cdots x_n^{\pm 1} の逆元は明らかに  x_n^{\mp 1}x_{n-1}^{\mp 1}\cdots x_1^{\mp 1} でこれも語になっているのでOK.

以上で  (1) は示された.

 (2) について:

 H S を含む  G の部分群とする. このとき任意の  \langle S \rangle の元  x_1^{\pm 1}x_2^{\pm 1}\cdots x_n^{\pm 1} について, まず各  x_i H に入っていて,  H が部分群なので積や逆元に関して閉じているので

 x_1^{\pm 1}x_2^{\pm 1}\cdots x_n^{\pm 1} \in H

が成立する. よって   \langle S \rangle \subset H が成り立つ. (終)

 

定義 3.  G の部分集合  S に対して   \langle S \rangle  S が生成する部分群 という.

特に  S=\{ g \} という1点集合のときは, いちいち   \langle \{ g \} \rangle とかかずに,   \langle g \rangle とかく.

また  S=\{ g_1, \cdots , g_n \} の時も同様に   \langle g_1, \cdots, g_n \rangle とかく. この  S の元を生成元という.

 

冒頭の話は,  G=\mathbb{Z}, S=\{ 2 \} として,   \langle 2 \rangle =2 \mathbb{Z} ということになります.

 

今回はこのあたりで終わります. 次回は今回の話を使って巡回群や元の位数などについてまとめてみたいと思います.

 

何か間違いなどあれば教えてください.

 

[参考文献]