ガランガラのブログ

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初学者向け群論解説 その10 ~同値関係と同値類~

今回は同値関係と剰余類についてまとめようと思います.

同値関係や剰余類の考え方は代数学だけでなくほかの分野でもよく出てくるので, はじめはなじめないかもしれないですが, しっかり腑に落ちるまで時間をかけて慣れていってください.

 

定義 1.(二項関係)  S を集合とする. このとき  S \times S の部分集合  R S 上の二項関係という. また  R S 上の二項関係としたとき,  (x, y) \in R なら  x y は関係  R を持つといい,  xRy とかく.

はい. そうですよね. 関係っていうなじみ深い言葉かと思ったらいきなり変な定義が出てきて混乱してしまうかもしれませんが, ゆっくり具体例を見てみるとそこまで難しいことは言っていないことがわかると思います.

 

 (1) 恒等関係:集合  \mathbb{S} に対し,  R:= \{ (x, y) \in S \times S \mid x=y \} = \{ (x, x) \in S \times S \mid x \in S \} S 上の二項関係です. これどういうものかわかりますか?  (x, y) \in S \times S に対して, 

 (x, y) \in R \Longleftrightarrow x=y

ということでこの関係は恒等関係, すなわち  x y は等しいという関係です. 

 (2) 大小関係: \mathbb{Q} 上の関係として

 R_{ \leq} := \{ (x, y) \in \mathbb{Q} \times \mathbb{Q} \mid x \leq y \}

は, そのままですが  x \leq y という大小関係になっています.

 (3) もっと自由に:今までの例は, まあ今まで数学をやっている人ならなじみ深いと思うのですが, 逆にそれによって「なんでこんなこと定義するの?」というのが見えにくいかもしれません. そういう時は, 定義を満たすものなら何でもいい!と先入観を捨てて具体例を考えてみるのもいいかもしれません. (なんでこんな定義をするの?という問いへの答えにはなっていないですが, 定義満たすなら何でもありだということが実感できれば関係という概念に足しての先入観は解消されるのではないかと思います.)

 S=\{ あきら, かおり, さおり, たろう \} に対して,  S 上の恋愛関係  R を   R := \{ (あきら, かおり), (かおり, たろう), (たろう, かおり) \} とし,

 xRy のとき 「 x y が好き 」

ということにします. するとこの恋愛関係では, あきらくんはかおりさんに片想いをしていて, しかしながらかおりさんとたろうくんは両想いという状況になっています. こんな感じで数学が関係なさそうなことでもしっかり数学的に定義することができました.

 

まあ, こんな感じでいろんな関係があるわけですが, そんな中で, これから定義する「同値関係」というものは数学においてとても重要な関係の一つになっています.

定義 2.(同値関係) 集合  S 上の関係  \sim が次を満たすとき 同値関係 という.

 (1) 反射律:任意の  x \in S に対して  x \sim x

 (2) 対称 x, y \in S に対して,  x \sim y ならば  y \sim x.

 (3) 推移律 x, y, z \in S に対して,  x \sim y かつ  y \sim z ならば  x \sim z.

 

これも具体例を見てみましょう. 

 (1) 集合  S 上の恒等関係  x=y は同値関係です.

 (2) (同値関係でない例)  \mathbb{Q} 上の大小関係  x \leq y は反射律と推移律は満たしますが, 対称律は満たしません. ( 2 \leq 3 だが  3 \not \leq 2)

 (3) 合同関係 n を正の整数とし固定する.  \mathbb{Z} に合同関係  x  \equiv y\  {\rm mod}\ n

 x \equiv y\  {\rm mod}\ n \Longleftrightarrow x-y \in n \mathbb{Z}

と定義するとこれは同値関係になります.

 (4) 部分群による同値関係:群  G の部分群  H に対して,  x, y \in G に対して 

 x \sim y \Longleftrightarrow x y^{-1} \in H

と定義すると, これは同値関係になります. これはすぐ上の例の一般化になっています. 実際  G=\mathbb{Z}, H=n \mathbb{Z} とすれば, 加法群  \mathbb{Z} において  y の逆元は  -y なので  (3) のものになると思います. 

実際これが同値関係になることも証明してみましょう.

 (i) 反射律:任意の  x \in G に対して,  H が部分群なので

 x x^{-1}=1_G \in H

より  x \sim x はOK.

 (ii) 対称律:  x, y \in G x \sim y , すなわち  x y^{-1} \in H を満たすとき, ここでもまた  H が部分群なので  x y^{-1} の逆元  y x^{-1} H の元となる. よって  y \sim x となりOK.

 (iii) 推移律:  x, y, z \in G x \sim y, y \sim z, すなわち  x y^{-1}, y z^{-1} \in H とすると,  H は部分群なので積に関して閉じているので

 (x y^{-1}) (y z^{-1})=x z^{-1} \in H

となり  x \sim z がわかりOK.

以上より同値関係になります. この例は群論でとってもとっても大事です.

 

他にも自分で 「反射律だけ満たすもの」や「推移律だけ満たさないもの」など考えてみてください. 関係の例でみたようになんでもいいので作れるはずです.

では同値類を定義しましょう.

 

定義 3.(同値類)  \sim を 集合  S 上の同値関係とする.  x \in S に対して

 C(x) := \{ y \in S \mid x \sim y \}

 x の同値類という.

 

 (1) 集合  S 上の恒等関係「 x=y」については, 任意の  x \in S に対しその同値類は  C(x)=\{ x \} というそのもののみからなる  S の一点部分集合となります.

 (2) 上の合同関係で例えば  n=3 とすると, 

 C(0)=\{ y \in \mathbb{Z} \mid 0-y \in 3 \mathbb{Z} \} = \{ \cdots, -6, -3, 0, 3, 6, \cdots \}

 C(1)=\{ y \in \mathbb{Z} \mid 1-y \in 3 \mathbb{Z} \} = \{ \cdots, -5, -2, 1, 4, 7, \cdots \}

 C(2)=\{ y \in \mathbb{Z} \mid 2-y \in 3 \mathbb{Z} \} = \{ \cdots, -4, -1, 2, 5, 8, \cdots \}

同値類には次のような性質があります.

命題 4.  \sim を集合  S 上の同値関係,  C(x) x \in S の同値類とするとき次が成り立つ.

 (1) 任意の  y, z \in C(x) に対し,  y \sim z.

 (2)  y \in C(x) ならば  C(x)=C(y).

 (3)  x, y \in S C(x) \cap C(y) \not= \emptyset ならば  C(x)=C(y).

証明 

 (1) について:仮定より  x \sim y, x \sim z であり,  \sim が同値関係なので対称律が成り立つので  y \sim x が成り立ち, また推移律も成り立つので  y \sim x かつ  x \sim z より  y \sim z となる.

 (2) について:任意の  z \in C(x) をとると,  y, z \in C(x) なので  (1) より  y \sim z となり  z \in C(y) なので  C(x) \subset C(y) が成り立つ. また  z \in C(y) とすると,  y \sim z かつ  x \sim y なので  x \sim z より  z \in C(x) となり  C(x) \supset C(y) が成り立つのでOK.

 (3) について: z \in C(x) \cap C(y) をとると  (2) より  C(x)=C(z), C(y)=C(z) よりOK. (終)

実際上であげた同値類の例でもこの性質が成り立っていることがすぐわかると思います.

 

今回はこれで終わります.

 

何か間違いなどあれば教えてください.

 

[参考文献]